読み物
□溺れるような
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「なぁ、骸?」
「なんですか、ベル君」
「…………なんも無い」
いつものように、骸の部屋に転がり込んで、ベッドの上で戯れる俺と骸。
他愛も無い話ばかりして、時が過ぎる。
とても幸せで
とても不安な時間。
いつもいつも、憎らしいくらいの余裕で俺に触れて
もどかしいくらい優しく、俺に囁く。
振り回すのは得意だけど、振り回されるのは得意じゃない。
骸が触れる指先から熱が広がって、顔が熱くなるのが分かる。
それを隠すのに必死な俺とは違って、涼しげに笑うコイツが
憎らしくて
愛しくて
どうして良いか分からなくなる。
「骸なんか、嫌いだよ」
小さく小さく呟いた言葉ですら拾って、
どうしたんですか、急に
なんて返してくる骸にまた一つ沈む俺の身体。
出会った時から、骸という存在に 膝まで俺の身体は沈んでいたのに
髪を撫でる骸の手に、愛を囁くその声に、
少しずつ、だけど確実に
溺れていく、心
「骸は、ズルい。いつも俺ばっか追いかけてる気分になるんだよ。王子がこんな気分になったの、お前のせいだから」
繋いでいた手に、少しだけ力を込める。
骸なんか嫌いだと、自分に言い聞かせるのが自分を保つ唯一の手段になっていた。
「今日はえらく甘えますね、そんなベル君も可愛いですが」
クフフ
と独特な声を発していつものように髪を撫でる。
トプン
ほら、また君に沈む。
「甘えてなんかねぇよ!何、バカにしてんの?」
怒りに身を任せて顔を上げると、額には骸の唇が当てられる。
トプン
出会った時からずっと、骸に沈み続けた俺は
もう喉まで骸に依存していた。後少しでも気を抜いたら、溺れてしまう。
それは何かの中毒症状のように、俺を貪る。
「落ち着きましたか?なにをそんなに焦ってるかは知りませんが、僕だって一人でベル君を追いかけてる気分になる時はあるんですよ?」
目を細めて笑いながら放たれた言葉は、信じがたいものだった。
「は……骸も?」
「まぁ僕の場合は、独占欲……なんですけどね」
そう言うと 骸はいとも簡単に俺にフレンチキスを落として、何も無かったかのようにまた頭を撫でた。
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