読み物

□いっそ引き裂いて
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手を伸ばせば届く距離に貴方は居るけれど


その距離程遠い物が他にあるだろうか――……






















今日は晴天。すがすがしいくらいの青空が頭上に広がって逆に憎らしい。



「土方さん。タバコばっか吸ってねーでいい加減仕事したらどうですかィ?」



「……アイマスク着けて横になってるヤツにだけは言われたくねーな」



知らないくせに


俺がアイマスクをするのは貴方を見ない為なんだ。

意識せずとも追いかける瞳、だけど俺の瞳に写るその姿はいつも違う所を見つめてる。


誰か…なんて聞かなくても分かる。
だからこそ心が苦しい。


俺の瞳に写る貴方は俺を写さない



こんな瞳、無意味だ。



「オイ総悟。お前も寝てばっかいねーで見回りにでも行って来たらどうだ」



そんな事言って、見回りに行きたいのは自分なんでしょう?

きっと、貴方は外を見てる。


そんな事、目を閉じてても分かる



だって俺は貴方が好きなんだから。




チクリと痛む胸の傷にはもう慣れた。

息苦しさも、もう…慣れた。



だから随分と平静を装って言えるようになった。



「見回りならさっき行って来やした。心配なら土方さんがもう一度行って来たらどうですかィ?」



少しの沈黙と、その後の回答も予測済み。



「あぁ。じゃあ行って来る」



予測が外れる事を期待してるなんて、馬鹿らしい


その言葉に心が痛むなんて、愚かしい。



「………アイスクリーム買って来いよ土方」



「買わねぇよ!!山崎にでも言え」




ねぇ、土方さん。

俺の声


震えてなかったよね?


閉まる扉に行かないでと叫べたらどれだけ楽だろう



離れる身体を掴めたらどれだけ幸せだろう




だけどそんな事出来るだけの勇気も、度胸もない俺を


貴方は笑いますか?



「いかないで………下せェ」



誰も居なくなった部屋で押し出した声は、かすれて震えて弱々しかった。



受ける人の居ないその音は空気に溶けて。



返事なんて無いに決まってるのに心が痛かった。



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