読み物

□悠久の刹那
2ページ/6ページ




これで終わりなのだろうか、数え切れない程いままでたくさんの夢を見てきた。


アイツと出会った事、交した会話、笑顔。



結局最期はあっけなくて儚くて、だけど鮮明で残酷。


きっとあれはオレの前世なのだと

気付いたのはいつだっただろうか




愛していたのに届かなかった手。




さよならを言わずに離してしまった指先。




アイツが泣く事がなによりも辛かった。



拭ってやれない自分がとても歯がゆかった






「あーあ、最悪だぜ」


もう昼近いというのに腫れた目の赤みは引かなくて



「しゃーねぇ、今日は休むか」



イタリアからつい昨日日本に来たばかりだった為か、時差ボケもあったし再びベッドに飛び込んで



吐き出されたため息は部屋に消えて、袋に入れた氷水を瞼に当てて熱が引くのを待った。



「あー、眠い」



眠れぬ夜には慣れていた


そのはずなのに何故か今日はとても胸が騒ぐ。



夢でこんなに泣いたのも、初めてかもしれない。


それは、別れの夢だったからだろうか。





アイツは、もう泣いていないだろうか




夢の中の人間を気にするなんてどうかしてると思うのに 気になって仕方ないのは、それだけあの夢が強烈だったからだろうか



「らしくねぇ……」


取り出したタバコに火をつけて、無理矢理落ち着かせる。



「はぁ、腹も減ったし出かけるか」



目の腫れはすっかり引いて、高かった太陽はずいぶんと傾いていた。


「この町の事も偵察しとかねーとな」



適当に腹を満たした後、並盛町を探索する。


これから、オレが住む町。



空は、蒼に薄いオレンジがかかった綺麗で切ない色だった。



「どこかでみたような……」



あぁそうだ、あの夢でオレが死んだ時も、この空のように綺麗だった。



霞む意識の向こうに泣き崩れたアイツが見えたようで



また胸が騒いだ。


「あーぁ、カメラでも持ってくれば良かったぜ。こんなに綺麗な空、なかなか見られねぇのに……」


勿体無いと、素直に思った。



誰にも心を許さず一匹狼のようにイタリアで暴れ回った。

イタリアのあの空も美しかったけれど


この空には敵わないと思うほど、日本の空は切なくて綺麗で。




ふと、前方から見知らぬ陰が近付いてくるのが見えた。


逆光で顔ははっきりと見えないけれど



確実にオレを見てる。


その陰は突然言葉を放った。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ