読み物
□いっそ引き裂いて
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感情が作用して流れる涙は生温くて。
涙が流れた分だけ心が軽くなるならきっと俺の心は空気より軽いのに
近藤さんも、姉上も、あの人に奪われて。
憎くて憎くて仕方なかったのに
知らないうちに俺の心まで盗って行った。
頭は貴方を憎んでいるのに心は貴方に惹かれてる。
正反対の方向に引きずられる心と身体。
重量も引力も、見えない力に逆らって引っ張る強い光。
「土方、さん」
それが貴方だ。
名前を呼ぶだけで今にも心が潰れそうなのに。
それでも心が潰れないのは皮肉な事に貴方への想い。
憎しみも、愛しさも、苦しさでさえ
俺の心を支える
「お前なんか、嫌いだ」
平気な顔して俺の頭をくしゃくしゃと撫でるその手に、何度も心がぐしゃぐしゃになるのを気付かないふりした。
ふいに見せる笑顔に、何度も息が出来なくなったのを無視した。
俺を見てくれないと思い知るたびに、気が狂いそうになるのを何度も押し殺した。
俺の想いを知らないからこそ貴方は酷く残酷なんだ。
俺の気持ちは綺麗な色じゃない。
憎しみと悲しみと嫉妬で彩られた醜い色。
綺麗な貴方を一色に染め上げるただひたすらの黒。
どれだけ貴方が白かったとしても、交われば飲み込む。
狡猾な、漆黒。
あぁ、なんて
「俺は汚い……」
生きる事はこんなに苦しかっただろうか、どうしてこんなに痛いんだろう
こんな気持ち、知りたくなかった。
貴方になんて、逢わなきゃ良かった。
どうして俺じゃ、駄目なんですか……？
俺には向けられない、その笑顔が欲しくてたまらない。
あの人を見て幸せそうに目を細める貴方の姿が容易に想像出来て、また心が黒くくすむ。
どうして心があるんだろう
感情がなければこんな気が狂いそうな感覚知らなくて済んだのに。
死ぬより苦しい生を生きなくて済んだのに。
どうして俺は俺なんだ。
何故あの人になれない
なぜ、どうして、なんで……
誰か答えて
誰か教えて
どうして俺は生まれたの？
どうして俺は生きてるの？
いや、分かってる。
「大嫌いなお前のせいだよ」
いつだって俺を左右するのは俺じゃないんだ。
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