読み物

□暁に堕つる
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その日は、満月だった。
月の明かりがステンドグラスの窓から差し込み、夜の闇に光と影をもたらす。




「はぁ、さっさと一日が終われば良いのに……」


仕事の当番の為、今日一日は俺が教会に泊まらなければいけなかった。
たまにやってくる悩める人びとの言葉を聞き、元気づけるそんな仕事。
簡単に言えば愚痴の捌け口。


神に祈りを捧げる人々の力になり、汚い心を洗い流す神聖な職業。


そんな事は全く思ってない。神だって信じて無い。



「神を信じない聖職者なんて俺くらいだろうな………」

ポケットから禁止されているタバコを取り出して火をつける。
息を吸い込むとタバコの先が赤くなり、煙が肺いっぱいに充満した。


「なんか面白い事、起こらねぇかな………」


聖職者ほどつまらない仕事は無い。

『汝の隣人を愛せよ』

だなんて綺麗事以外に思えない。そんな俺が、神に仕える聖職者なんて、これほどの矛盾は無いだろう。




短くなったタバコを捨てるために、外に出る。沢山のクローバーが葉についた滴に月の光を反射させる。





不気味な程、美しい夜。

吸い終わったタバコを土に埋めて、教会の扉を開く。


















それが




アイツとの


初めての出会いだった。





開いた扉の向こうには先程までには無かった人影。
丁度、月の光が差し込むその場所に立っていた。




「何か、お悩みですか?それとも……神に祈りを?」

黒いコートに身を包んだ、銀髪の男は振り向かない。


「悩みなら、相談に乗りますよ?」


正直……早く帰れと思いつつも、仕事なので一応聞く。






「手に入れたい、物がある」


突然、男は声を発した。夜の静寂に響き渡るその声。

「では聞きましょう。欲しい物とは何ですか?」


どうせ、金とか権力とか、そんなくだらないものだろう。そんな事を思いながら、ソイツの近くにゆっくりと近づく。


「俺が欲しいのは、堕ちた天使。」



男は、予想外な言葉をはっきりと返して来た。
そして、振り返る。





美しい銀髪と
紅い瞳
口元から覗く牙
そして……

白い肌についた、鮮やかな血痕



「神から奪って、堕としてやる」

「お前は…………」



ソイツは、笑う。
闇を味方につけたような笑みで。


「お前は…………ヴァンパイア………」


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