読み物

□暁に堕つる
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昔、同じ聖職者だった親父から聞いた事がある。


『良いか十四郎、ヴァンパイアには気をつけろよ』

「悪魔も悪霊も退治出来るのに、どうしてヴァンパイアには気をつけるの?」

『アイツらは、とても悪賢い。そして』

「そして?」











『美しいんだ』





あの時の言葉が、今………分かった気がする。


「へぇ………良く分かったな………って言っても、この格好じゃバレバレか」

「お前を………退治する!」



さっと、銀の十字架を出す俺。一瞬だけ戸惑いを見せたアイツ。


「そんな事しなくても、別に危害は加えないって」

にっこりと笑う、男。

「俺は、銀時。」

こんな状況だというのに、淡々と自己紹介する銀時と言うヴァンパイア。
どうも調子が狂う




「じゃあ……その、着いた血痕は何だよ。危害を加えないなら、何処でつけた?」

「あぁ………コレ?こけたんだよ」



ペロリ、と血を舐める銀時は――――……とても、そう。

とても妖艶だった。


「っ………」

「それに、俺が血を吸うのは」






そっと、俺の首筋に舌を這わせる

ゾクッと、背筋が震えた。



「吸って欲しいって、望んだ人間にだけだから」


「っあ………」



首筋にチクリと軽い痛みが走る。




「………感じた?」


真っ赤な瞳に、映る俺の姿。
きっと今、俺の目にもコイツの姿が映ってるんだろう。

「感じる訳………ねぇだろ!今すぐ離れねぇと退治するぞ!」



バッ……と、持っていた十字架を俺と銀時の間に突き出す。







「出来るの?本当に、俺を………」

ニヤリと笑う、ヴァンパイア。
早く月が沈んで、日が上がれば良い。




そしたら、答えなんて出さなくて良いのに



「出来る………俺は…お前を」


言い聞かせるような言葉。これほど自分を情けなく思った事は無い。

「言い聞かせてるみたいだね………抵抗しないよ、さぁどうぞ?」


両手を挙げて距離を詰める銀時。
何故かその分、後ろに下がる俺。



「どうして逃げんの?十字架を当てれば終わりじゃんか……」

「………くそっ!」



アイツが距離を詰めれば、その分離れる俺。

縮まらない距離







夜は
明けない



「ほら……退治しないなら、イタズラするよ?」


笑顔に、何故か恐怖を感じる。


銀時が詰めた分の距離を離そうと、後ろに足をずらした。









トン………


背中には壁、逃げ場は・・・

無くなってしまった。

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