拍手置き場
□2007.11.01〜
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『浪漫珈琲店の二人』
「いらっしゃいませ〜!お一人様ですか?こちらにご案内します。」
ここは、高級な雰囲気と香りが漂う「浪漫珈琲店」。そこには、黒のワンピースに白のエプロンを身につけた、つまり、メイド姿の陽菜ときらがいた。
(がんばって、哲生のクリスマスプレゼント代、働かなくっちゃ!!)
駅前で、片瀬に似合いそうな皮製の手袋を見つけた陽菜だったが、あきらかに予算オーバーであった。しかし、どうしても諦めがつかなかったのである。まるで、その手袋が「あなたに私を買って欲しい★」とでも、訴えているようだったのである。どうしよう…と諦めがつかず、寮へ帰る道を歩いていると、浪漫珈琲店の前にアルバイト募集のチラシを見つけた。
しかし、浪漫珈琲店は高級店なので、一人では不安だった陽菜は、きらも誘った。きらも陽菜と同様に、優へのプレゼントが予算オーバーだったらしく、バイトの件を話すと、喜んで引き受けてくれた。
(よし!優に喜んでもらうために、がんばって稼ぐぞっ!!)
こうして、二人はメイド服に身を包み、心の中ではガッツポーズを決めていた。
カランカラン…
ドアの上部につけてあるベルが、小気味良く鳴
「「いらっしゃいませ〜」」
陽菜ときらは、声をそろえて客を迎える。
「「あっ!加々良さん!」」
「やぁ、白石!柏木さんも。いいね、その格好!!やっぱり女の子がいると、店内が華やぐよ!ね、マスター?」
「これは、これは、加々良様。ようこそ、いらっしゃいました。そうですね、今後も頼みたいものです。」
「おっ!それ、いいね、マスター!だったら、俺、週に何回も来るよ!!」
「ええ。お得意様の加々良様に来ていただけるなら、考えておきましょう。」
「よろしく頼むよ、マスター!」
「はい、はい。では、二人とも、お席にご案内して。」
「「はい!」」
こうして、メイド姿の二人に案内され、愁一は、席に着いた。
「うん。ほんと、可愛いね、二人とも!」
「もう、加々良さんったら……そんな…あんまり、言わないでください…恥ずかしいんですから、この格好……」
と、陽菜が照れながら言った。
「どうして…?可愛いから、可愛いって正直に言ってるんだけど…?でも、恥ずかしがるところも、かわいいね!!」
「「――っつ!!」」
そんな、天然王子様な愁一に、手も足もでない二人であった。
「そういえばさ、誰か、顔見知りの人、ここに来た?」
「え?昨日から、バイトし始めたので、知り合いには会ってませんよ?第一、誰にも言ってませんし…どうかしたんですか?」
ときらが、なんとか、話題をそらそうと、愁一に尋ねる。
「いや、特に理由はないんだけどさ…そっか…誰にも言ってないんだ…」
なんだか、他意がありそうな様子の愁一を、不思議に思いながら、陽菜ときらは首をかしげた。
(そっか…あいつら、知らないのか……ふふ、教えてやろっかなぁ〜?でも、あいつらに教えずに、独り占めってものいいしな…)
「…あの、加々良さん?」
「あ!ごめん!何だった?」
「オーダーは…?」
「あぁ、ごめん!ブレンドをお願い。」
「かしこまりました」
「よろしくね!かわいい、照れ屋なお二人さん♪」
「「――っ////んもう、勘弁してください!!」」
と、二人は足早に、フロアーからカウンターへ戻った。
そんな様子を、ガラス越しに見ていた人物がいた。
(愁一のやつ、あいつに何言ったんだ!あいつのあんな顔、僕だって数えるぐらいしか見たことがないんだぞ!!
しかも、あいつのあんな格好、僕より先に間近で見るなんて!!僕もお金貯めて行ってやるんだからな!覚えてろ!!)
……一般の高校生が、一杯千円もする喫茶店に入るには、それなりの度胸とお金が必要らしい。
そんな捨て台詞を吐いて、その場を去ろうとした優だったが、振り向きざまに、誰かとぶつかった。
「あっ!すいません…って片瀬!?」
「なんで、愁一がいるんだぁ?」
片瀬の目は、愁一と話している陽菜にくぎづけだ。
「あいつら、何しゃべってんだよ!!しかも、あいつ、愁一の前であんな格好しやがって…!!見せるのはオレだけでいいんだよっ!!な、お前もそう思うだろ?」
「あ、あぁ…」
優は、そんな片瀬の形相に驚いて、とっさに言葉が出なかった。
(こいつの独占欲の強さは、半端じゃないな…)
「覚えてろよ!!愁一、陽菜!!オレに言わなかったこと、後悔させてやるんだからなぁ!!」
―そんな、片瀬を見て優は、
(どんなに、独占欲が強くても、道の往来で叫ぶ人にはならないようにしよう……)
と、つくづく実感したのであった。
―E N D―