The Original Story
□彼女の呼び名
2ページ/8ページ
「おはようございます」
レジに立った私は、再び挨拶をした。
「おはよ〜かなでちゃん!今日は一時間遅れるって言ってなかったっけ?」
「はい。ダッシュして駆け込み乗車でなんとか乗れました…」
「そっか!あの坂、ほんとにきついからね〜オレもさ、時間ギリギリだと大変だもん!」
「そうですよね〜…」
只今、私と話している人物、桐島 瀬那(きりしま せな)、バイト先の先輩である。私と同じK大学の4年生で、同じ中学だった。因みに要とは同じ高校。
「ねぇ?かなでちゃん?」
「だから、私は楓ですってば!」
「いいじゃん!ニックネームだよ!ニックネーム!!」
「先輩だけですよ!?そう呼ぶの」
「へぇ〜そうなんだ…」
含みのあるような言い方が気にならない訳ではなかったけど、いつものことなので、まともに相手にしてはいけない…
「んじゃあさ、かなでちゃんもオレに何かつけてよ!ニックネーム!!」
「えぇ?どうして私が?」
「いいじゃん!だってさ…こうなんていうか…二人だけの呼び名決めるのって、なんだか……『オレたち仲良し!!』みたいな?」
「はい、はい…」
先輩はいつもこんな感じだ。このペースに巻き込まれては、いけない…
「ね?だから、つけてよ?ニックネーム!!」
「そう言われてもすぐに思いつかないですよ!!」
「んじゃ、宿題!」
「はぁ?」
「さて!掃除機でもかけますか!!」
そう言って、さっさとレジを立ち去り、掃除機をかけ始めた。
そんな様子はいつものことで、交代のオバちゃんは、
「モテる女はつらいねぇ〜…」
などと、どこかで聞いたセリフを残して、帰っていく。
これもいつものことだけど。