水の旋律
□世話の焼ける二人
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「「すぐるおにぃ〜ちゃ〜ん!!」」
ここは柏木ホーム
きらはシスターに優を紹介するため、強引に連れてきたのだった
そのはずが…
「すぐるおにぃちゃんは、あたしとあそぶの!!」
「ダメ!わたしとあそぶんだからっ!!」
優の両腕を柏木ホームの子どもたち(女子二名)が引っ張り合いをしている
優は自分の腕をギュッと掴み、言い争いをしている子どもたちをどうしたらいいのか分からず、あたふたしている
こんな優を見るのも珍しいな…と思いつつも、きらは見るに見かねて二人を止めに入った
「こら!優が困っているでしょ!?二人とも腕を離しなさい!」
「「い〜やぁ〜!!」」
二人は示し合わせたように、上目遣いに言う
「すぐるおにぃちゃんとわたしたちのもんだいなの!!きらおねぇちゃんには、かんけいないの!!」
「そうなの!!きらおねぇちゃんは、なかまに入れてあげないの!!」
子どもたちは、キッ!ときらを威嚇した
「はぁ!?どうしてよ!?」
きらもそんな二人の態度に苛立ち、声を荒立てる
そんな苛立った様子のきらを見た二人は、見せびらかすかのように、優の両腕により強く抱きついた
「すぐるおにぃちゃんは、あたしといっしょにあそぶの!!きらおねえちゃんに、わけてあげるぶんはないの!!」
「そうなの!すこしもないの!!」
「んなっ!!生意気な!!」
大人顔負けのセリフを言う子どもたちにきらもムキになってしまう
女の戦いの火蓋が切って落とされた
「…それに…おんなとしての『みりょく』はあたしたちのほうがうえよねぇ〜」
「ねぇ〜?」
優の腕を離さず、同意を求めるようにして言う二人
「何言ってるのよっ!!私の方が魅力的に決まってるでしょ!?」
「えぇ〜…そうなの〜?…ねぇ、すぐるおにぃちゃ〜ん?」
「それは……」
優はこの状況をどうしたものか…と、火花を散らしている三人を見た
「……そうだな、10年後が楽しみだな…」
そう言って、優はその場にしゃがみ込み、子どもたちの頭を撫でた
「すぐにおおきくなるから、まってて!すぐるおにぃちゃん!」
チュッ!と可愛らしいリップノイズを立て、優の頬にキスをした
「あ!ズルイ!!わたしも!!」
そしてもう一人、反対側の頬にチュッ!と可愛らしいキスをした
「何してんのよ!!あんた達――っ!!」
きらは激怒し、優は驚きのあまり固まり、二人の子どもは、優の頬を奪えたことが余程嬉しかったのか、飛び跳ねている
「くやしかったら、きらおねぇちゃんもしたらいいじゃないの〜?」
「ね〜?」
「―んな!?人前でそんなこと、できるわけないでしょ!?」
「どうして〜?」
「すぐるおにぃちゃんのこと、すきじゃないの〜?」
「やっぱり、あたしたちのほうがすぐるおにぃちゃんのことすきなんだよ〜」
「そうだよね〜…あたし、こぉ〜〜んなに、すぐるおにぃちゃんのこと、だいすきなんだもん!!」
そう言って両手を伸ばし、円を描いてみせた
「わたしだって、こぉ〜んなにすきなんだからっ!!」
もう一人も負けじと、両手を伸ばし、飛び跳ねながら円を描く
「きらおねぇちゃんは?」
「わ、私は……」
「ほら!あなたたち!優おにぃちゃんと、きらおねぇちゃんを困らせるんじゃないの!」
これまでの様子を見守っていたシスターが二人の質問を遮った
「「そんなことしてないもん!!」」
(よく言うよ…)
きらはため息を吐きながら心の中で呟いた
「そうだわ!せっかく、来てもらったことですし…優おにぃちゃんに柏木ホームの中を案内してはどうかしら?」
「「あんない!?する!するぅ〜!!」」
二人は目を輝かせて言った
「では、中に入りましょうか」
優は二人に両腕を引っ張られて、ホームの中へと入っていった