Thanks Clap!!
[儚くも消えないものふたつ]
そっと足を着ける。地面なんてものはないみたいだけど。空間に、足を着ける。変な、浮遊感。
そのまま前に進もうとした。けど、誰かに呼ばれて立ち止まる。
振り返ってはいけないと、私の中の何かが叫ぶ。
「行かないで」
ああ、ひどく懐かしく聴こえるこの声は、
「ペーター」
ゆっくりと振り返ると、そこには白い、愛したひとが。
そのひとは、微笑み、私に右手を差し出す。
「…帰りましょう。」
私は、言われた言葉を頭の中で繰り返す。
帰るとは、一体どこに?
「……帰らないわ。」
白いひとが、酷く傷ついた顔をする。悲しそうな、顔。
私はただ呆然とそれを見る。
なんで悲しそうな顔をするの?
そっと彼に手をのばす。
届かない。
どうして?こんなに近くにいるのに。
不思議に思って彼を見上げると、彼はまた悲しそうな顔をした。
「…帰りましょう。」
彼はまた、言葉を繰り返す。脳内で響く、その言葉。
「…わたし、の…帰る場所は、どこ…?」
なんだかうまく喋れない。どうして…?
彼がそっと私に手をのばす。やっぱり届かない。
でも、なんだか暖かい、抱きしめられている気がする。こんなにも、遠いのに。
「あなたの帰る場所は、ここです。」
また、脳内で響く声。
それが心地よく思えて、目を閉じる。
「………うん。」
私の帰る場所は、
「帰りましょう。」
また彼が繰り返す。
そっと、手が触れた気がした。
「…はい。」
暖かい、あなたのもと。