書物棚2

□家族ごっこ。
3ページ/7ページ

堺にある石田屋敷に行くと、幸村は三成から正澄を紹介された。
顔付きは三成に似ているが、どこか柔らかい。背は高く、三成と幸村の間位だ。三成と同じ明るい髪は短く切られている。無口だか、無愛想と言う訳ではない。真面目で弟思いの良い兄だった。
私が憧れた、三成殿の兄上……。
「お世話になります。真田幸村です」
幸村はお辞儀をする。
「よろしくね」
正澄は小さく笑って応えた。

夜。
三人は夕餉を取っていた。正澄は独身だし、両親は近江。屋敷には一人で暮らしていた。家臣は何人かいるが、一緒住んでいる訳ではない。
久しぶりの賑やかな食事に正澄はどこか嬉しそうだった。
夕餉後は雑談会。
幸村は正澄に石田兄弟は幼い頃どんなだったかと尋ねた。
「幼い頃はほとんど共に過ごせなかったからね…たまに佐吉の居る寺に遊びに行ったりはしたけど」
佐吉は三成の幼名。
三歳の時に学問修行の為に三成は寺に出された。正澄は父の元で武芸に励み、ある程度の歳になると、当時の近江領主・浅井長政に仕えた。
幸村自身も家族とは離れて暮らす日々が長くあったが、幼い時は兄とは一緒に過ごせていた。
そのせいか石田家の事情を聞き、幸村は何だか寂しい気分になった。
「一緒に寝たり、甘味屋を歩き回ったりは…?」
「しなかったな」
幸村の問いに三成が答える。
「……」
突然、すっと立ち上がった正澄。座る三成を後ろから抱き締めた。
「兄上?」
「折角だから…今、じゃれてみようか?」
三成の耳に正澄のどこか甘ったるい声が響いた。
「幸村殿、兄弟の触れ合いとはどのような事をするんだい?」
「兄上とは碁を打ったり、父上やお祖父様から兵法とか築城技術を学んだり。三成殿とは…」
三成はぎょっとした。
幸村は変な勘違いをしている……。
しかし…幸村の答えを聞いて、まんま、兄上が鵜呑みにするわけないか……。
「佐吉と?」
「先日、私は三成殿の弟に成りました」
「あぁ、成程」
正澄は義兄弟の儀式を頭に浮かべた。
小刀で指を切って、その血を互いに舐める。とか、
神仏像の前で誓い合う。とか、
義兄弟の成り方とは多種ある。
幸村は三成を前から抱き締めた。三成は正澄と幸村に挟まれた形になる。
「こうして抱き合いました。私達は特別なので、私が上になりましたが」
幸村は当時を思い出したのか顔を紅潮させていた。
どこか嬉しそうだった。
三成はそれを聞いて真っ赤になってじたばた暴れる。
「幸村っ!!」
正澄は一瞬、驚いた顔をしただけだった。
「ずるいなぁ。佐吉にそんな可愛がり方…私もした事ないよ」
正澄は口の端を吊り上げ、後ろから三成の腿の付け根辺りを撫でた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ