書物棚4

□虎之助の茶人入門。
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豊臣秀吉に謁見するために大坂城に来ていた立花宗茂。
秀吉への挨拶が終わると、秀吉子飼いの将である加藤清正に声を掛けられた。
「宗茂…茶の湯を…教えてくれないか?」
少し赤い顔をして小声でぼそぼそと。
「お前…詳しいって聞いたから…」
宗茂は茶の湯には精通している。
清正は茶の湯を修得したかった。
秀吉が天下統一し、戦場のなくなった武士達の交流は茶や歌などの文化的なやり取りの場でが普通となった。
教養の部分が不足さを清正は痛感していた。
秀吉との茶会に自分は参加出来ないからだ。
茶会で秀吉に付いて行くのはいつも石田三成。
三成は同じ子飼い仲間で、清正とは折り合いが悪い。
清正は悔しかった。
だが、それ故に自分が遅れている気分になり、誰かに教えを請うのは何だか恥ずかしかった。
固定概念や世間の風潮に囚われないない宗茂なら出遅れた茶習いも馬鹿にしなさそうだと清正は思った。
それに、清正は宗茂の事を気に入っていた。
「いいぞ。今日は調度、茶道具を見に行こうと思っていたんだ。折角の大坂だしな」
宗茂は快諾し、清正と町へ出掛けようとする。
その時、
「宗茂っ」
高い声が響く。
赤い髪に、全身異国装飾の着物の姫。
玉姫――ガラシャだった。
「婿殿への借金を取り立てにきたぞ」
ガラシャの婿とは宗茂と仲が良い細川忠興。
ガラシャは忠興に付いて大坂城に来ていた。
「借金?」
清正が宗茂を見る。
超お坊っちゃんが借金とは信じられない。
「あぁ、あの時は助かりました」
宗茂は財布から金を出し、
「このままでいいですか?」
「うむ。よいぞ」
ガラシャは笑顔で頷き、直に金を受け取る。
「たーまーっ」
爆音を立てない程度に走り現れたのは忠興。
「勝手にうろうろするな」
忠興は清正を睨む。
「玉をいやらしい目で見るなっ」
「見てねぇよ…。そうゆうのなら宗茂の方が危ないだろ」
宗茂はとにかくモテる。
「宗茂は心配ない。私の友だからな」
忠興はガラシャの事になると常軌を逸してしまう。
特に嫉妬心が過剰だった。
「婿殿、わらわは宗茂からお金を返してもらっていただけなのじゃ。何もされてはおらぬぞ」
清正を我が妻をどうにかしようと企む悪漢と疑う忠興をなだめるガラシャ。
「…そうか?ならいいが…」
忠興はまだ清正をじろじろ睨む。
そんな居心地悪い空気を宗茂の笑顔が割る。
「忠興、先日は感謝する。あれは宝物だ」
「いやいや、気にするな。また茶会もやろう」
嫉妬狂いもモテ男宗茂にはにこり。
「わらわも行きたいぞ♪」
ガラシャ挙手。
「えぇ、是非」
宗茂からいい返事がきてガラシャは跳び跳ねる。
「玉様が来るとぎん千代が喜びます。彼女はああ見えて可愛いものが好きなので、玉様の着物に興味津々なんですよ」
ガラシャの着物は花弁か白波の様な装飾が全身にされ、長く美しい生地が所々に揺れる華やかな造りだ。
異国で言うドレスを思わせる。
「ぎん千代が可愛いのは知っておるぞ。一緒に着物の話をしたいのぉ」
「ぎん千代に伝えておきます」
宗茂の言葉にガラシャは満足そうに頷く。
「それじゃ、邪魔したな。我らはこれで」
忠興とガラシャは目礼して去る。
楽しそうに笑談していた。
「すまない、清正、待たせたな。行こうか」
軽く蚊帳の外だった清正。
「あ、あぁ。…なぁ、忠興とはよく茶会をやるのか?」
「そうだな。互いに茶器愛好家だからな。今、話していた借金も茶器を買うために忠興にしたものだ。茶器の貸し借りもしている」
随分と仲がいいな…。
絶対に茶の湯を極めてやる!
清正に三成へと違う嫉妬が出てきていた。

終わり。
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