書物棚4

□酒酔い色酔い。
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深夜、大坂城近くの真田幸村の屋敷。
満月の明かりが入る室内は畳上に酒瓶が散乱していた。
瓶の中は空。
中身は全て飲み干された。
どんっと乱暴に空き瓶が置かれる。
酒の香りが充満するこの部屋にいるのは幸村。
酒は全て幸村が飲んだもの。
幸村は酒好きだが、今宵の量はいつもより多い。
現在、彼はやけ酒中。
好物の焼酎を口にしているのに表情は険しい。

ばたん。

手にしていた瓶の分を口に含んだ刹那、幸村は倒れた。
酔いにくいと言われる焼酎だが、多量に摂取すれば酔う。
真っ赤な顔をして目を閉じた幸村は横になったまま動かない。
眠っているわけではないが、思考停止。
しばらく静寂が流れた。

「ゆきむら…幸村?」

突然、呼ばれたような気がして体が跳ねる。
目を開けて気だるい体を起こすとぼんやりと人影を捕らえた。
「…みつなり…どの?」
石田三成。
幸村の大事な人が目の前にいた。
幻覚ではなく三成本人が幸村のもとを訪ねて現れた。
三成は室内の異常さに幸村の面構えを心配そうに覗き見ていた。
「三成殿っ!」
幸村は泣きそうな声を上げて三成に勢い強く抱き着く。
三成は尻餅付いて倒れた。
「どうした?幸村」
「私は三成殿大好きですからっ!三成殿は良い人ですからっ!」
「…?」
三成の上で幸村は泣いて顔を埋めていた。
「落ち着け、幸村」
嗚咽が止まるまで三成は幸村の頭を撫でた。
落ち着いた幸村が顔を上げると三成からの口付け。
「落ち着いたか?」
「…無理ですっ」
一瞬、驚いた顔をし、今度は幸村からの口付け。
三成からのとは違って強く、深いやつだった。
「ゆきむっ…んっ…」
何度もそれが繰り返され、幸村の手が三成の体に伸びる。
着物越しに触れていた指も胸の合わせを割り、素肌に触れてくる。
今日の幸村は様子がおかしかったが、触れ方はいつも通り優しい。
その変わらなさに三成は安心して、身を任せていった。

「三成殿の顔が見たい…」
そう言って、幸村は三成の脚を開かせた。
前から貫くという意図の表示。
己以上に自分の体を知り尽くした幸村相手でも三成にとってこの体勢は恥ずかしい。
幸村のしやすいように脚は大きく開くが、幸村の顔は羞恥で見れない。
伏し目な三成の顔を幸村は真っ直ぐ見る。
それが余計に三成を辱しめた。
立てた膝に幸村が触れると、三成の体が少し硬くなる。
幸村が入ってくる。
「…ん…ぅっ」
体内に熱い幸村を感じ、三成は堪えきれない声を上げた。
「ゆっくり、息を吐いて下さい」
優しく幸村に言われて、三成は実践する。
「は…ぁ…楽になった…」
「良かった。そのまま深呼吸して下さ…っ」
腰を進めた幸村も三成を感じ、熱い息を漏らす。
繋がりきったその刹那、二人は口付けを交わした。

「…私、悔しかったんです」
すっかり酔いも引き、散らかった酒瓶を片付ける幸村。
三成は横になりながらその様子を見ていた。
三成も片付けを申し出たが、体に負担がかかった直後の三成にそんな事をさせる幸村ではない。
「悔しかった?」
「大坂城で…三成殿を悪く言う方がいたのですが…」
少し、間を空ける幸村。
「……三成殿は純粋で、義に厚いお方なのに…」
大坂城で三成の陰口を言う輩と遭遇した幸村。
『三成殿は悪い方ではありませんっ!』
そう言ったが、
『真田殿は大坂に来たばかりだから分からんのだ』
と、笑いながら返されてしまった。
幸村のやけ酒の訳は無力な自分に対してだった。
「言いたい奴には言わせておけばよい!」
そう強く言って、三成は幸村を真っ直ぐ見た。
「幸村が味方ならそれでいい」
嬉しいような、それでは何だかいけないような。
私が三成殿は良い方だと皆に教えなくては!
幸村は強く思った。
「ところで、三成殿はどうして私の屋敷に?」
「今夜は満月だから月見散歩に行こう約束していただろ。待ち合わせ場所にいつまでも来ないから向かえに行ったらこの有り様だ」
そういえば…そんな約束していたのを思い出した。
「わぁっ…すみませんっ」
勢いよく頭を下げる幸村。
「謝るな、月なら一緒に見れるぞ」
三成の視線の先には障子越しの満月。
幸村も頭を上げて、夜空を見た。
「月見酒しましょう、三成殿」
笑顔になった幸村に三成は飽きれつつも笑った。
「まだ飲むのか?」
「次は美味しく頂けそうです」
やけ酒は美味しくなかったようだ。

終わり。
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