書物棚
□偶然×偶然=成就?
1ページ/7ページ
小雪が降る冬の寒さが厳しいある日、石田三成は友の真田幸村に会いに上田城を訪れていた。
幸村自らが三成を出迎えに行く。
三成が今日、上田に来た訳は幸村との文で『上田の宝物庫には貴重な文献が沢山ある』と、いう話になり、三成がそれらを見せて欲しいと訪れたのだ。
三成は学問への探求心が強い。
幸村の案内で二人は倉庫へ向かった。
城の離れにある古い蔵が目的の場所。
「三成殿、これを」
幸村の手には赤い布で包まれた一尺も満たない長方形の箱が握られている。
忍びが使う携帯カイロだ。
鉄製の箱の中に暖めた炭が入っている。
「私の部下から借りてきました」
三成は受け取り、冷えた手を温めた。
「春になってから訪れるべきだったか…寒い中付き合わせて悪いな、幸村」
「いいえ、すぐにでも、と、呼んだのは私です」
幸村は三成の事を好いている。会えるなら極寒だろうが、猛暑だろうが嬉しい。
しかし、戦では勇猛の幸村は色恋に関しては未経験に近い。会って話す以上は今だに進めないでいる。
目的の場所に着いて、頑丈な鍵を開けて、二人は蔵へ入る。
幸村が提灯に火を灯すと目の前には古びた書物や道具が広がる。
三成は胸を躍らせた。
「いくつか借りてもいいか?ゆっくりここの書を読みたい」
「どうぞ。父上にも話してありますから好きなのを持って帰って下さい」
幸村が明かりを照らし、三成が蔵の品を物色し始めた。
がちゃり。
その時、何も知らない真田家家臣が蔵の施錠を閉めた。
誰だ?蔵の鍵を開けっぱなしにしたのは。
二人はそれに気が付かなかった。