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□嵐の夜〜バカは風邪を引けない
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大坂城。
豊臣秀吉、石田三成、島左近は和やかに雑談をしていた。
三成は無口な方なので主に秀吉と左近がべらべらと。
真面目に軍略の話やら、
「もみあげが立派な男は色好みなんだってよ、三成、左近に女の子と遊ぶ暇あげなきゃあかんよ」
なんて秀吉がニヤけながら猥談も。
「休みは与えております。なのに左近がずっと俺のそばに勝手に……」
「殿のお側にずっといたいのですよ。秀吉公のもみあげ説は外れじゃありませんな」
三成の肩を抱く左近。三成は照れたような顔をして視線を下にした。秀吉は仲良しな二人を微笑ましく見ていた。
秀吉に仕える三成、三成に仕える左近。この三人は主従関係だが、堅苦しい上下はなく、いつも家族や友と接するように気楽な空気だ。その和やかさで秀吉もその家臣達も民に人気だ。日の本を統一し、内政も順調である。
だからこうして平和な座談会も頻繁に開かれる。

かたかた。

障子が強い風に当たり、音を立てた。
左近が外の様子を伺う。
「人の気配はしませんな。ただ……今夜は嵐になりそうですぜ」
まだ朝餉を食べたばかりだというのに外は暗い。黒く、重い雲が空を覆っていた。
「秀吉様」
「なんじゃ?三成」
「今夜はここに泊まっていってもよろしいでしょうか?」
三成と左近の住居は大坂ではなく佐和山。嵐の中、大阪から戻れない、だから泊めて欲しい、と、三成が願ったと思った秀吉。
「もちろんさ、嵐が過ぎるまでここにいたらええ」
秀吉はにこにこ頷いた。
しかし、左近は三成の発言に何かが引っかかっていた。
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