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□恋は思案の外
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豊臣秀吉、天下を統一――。

近江の小さな村――古橋村で祭が行われていた。
領内視察を兼ねて石田三成とその筆頭家老の島左近は祭を見て回っている。見て回ると、言っても小さい規模なので見て回ると言うよりほぼ見渡すに近い。
二人は見渡しのいい小高い丘に並んで村人達を見ていた。
人々が楽しそうに笑い合っている。
皆が笑って暮らせる世。
三成が敬愛する主・秀吉が目指している世。
三成は今がそうなんだなと実感していた。
「殿、何だか嬉しそうですね」
無愛想美人の三成の微かな表情の変化を読み取った左近が声をかける。
「…皆が笑って暮らしていると思ってな」
「そうですな」
左近は頷く。
そして、声には出さず心中で続けた。

皆が笑って暮らし、利ではなく、人望で秀吉公の下に集う世にしないと。
隣にいる愛しき殿のために。

左近はまた世が乱れる予感がしていた。

徳川家康。

一見秀吉に従臣したように見えるが、あの狸のことだ、天下を横取りしないとも限らない。
目を光らせておかないとな……。
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