書物棚

□思い内にあれば色外に現れた後
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「幸村様ー、石田殿ー、申し訳ありませんっ!!」

壁の向こうから声がする。
真田幸村と石田三成は声がする方を見た。
二人は今、上田城地内の蔵にいる。
幸村が三成に『うちの蔵には珍しい文献がある』と領地である信濃国・上田に招いたのだ。
勉強家で本好きの三成はすぐに上田に向かった。幸村の案内で蔵に入った二人は手違いから蔵に閉じ込められてしまった。
季節は冬。信濃の寒さは厳しい。二人は体を密着させる事で温め合う。
ずっと三成を慕っていた幸村。
恋愛に不慣れな幸村はその思いをなかなか告げられなかった。
しかし、体は正直なもの。三成は幸村の変化に気付き、そのまま二人は結ばれた。
真田家臣が扉を開ける。
光が差し込まれた。
蔵に入る前と後で随分関係が変わった二人。
見慣れた上田も少し、景色が違うような気がする。もちろんそれは気のせい。心が随分変わり、起こった錯覚。
やっと二人は外へ出れた。

「本当に申し訳ありません!お二人がここにいるとは知らなくて……」
「お気になさらずに。皆に伝えなかった私が悪いのですから」

幸村が笑って応える。

「?、石田殿はどうかなさったのですか?顔色が優れないようですが…?」

蔵に鍵をかけてしまった男が幾重にも頭を下げて謝罪し、問いかけた。

「…中で足をくじいただけだ」

三成が言う。全くの嘘。

「大丈夫ですか!?すぐに薬を…っ!」
「あ、それと、風呂を湧かしてもらえますか?あと、私の部屋に火鉢と布団を用意して下さい」
「はいっ」

幸村の注文に応えるべく男は走り出す。
見送り、幸村は三成を見る。

「すぐに風呂の用意が出来ますからね」

三成は小さく頷いた。
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