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□しあわせのはな。
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夏の暑さが厳しい大坂に信濃の大名・真田昌幸とその倅・幸村は豊臣秀吉の居城・大坂城を訪れていた。
訪れた目的は秀吉の倅・秀頼のお誕生日会。
なかなか子宝に恵まれなかった秀吉にとって秀頼は目に入れても痛くない程に可愛い我が子。
実は秀頼の前にも男児が生まれていたが、不幸な事にわずか三歳で病死してしまった。
秀頼は今日で三歳。
これからもずっと長く元気で生きてほしいと強い願いを込めて、秀吉は各国の大名を呼んで盛大に誕生日会を開いた。
「ゆきむら〜」
だだっ広い室内で酒を飲み交わす大人達、子供の秀頼はある程度ご飯を食べて腹が満たされた辺りでただ座って、食べて、飲んで、に、飽きてしまった。
父の秀吉と母の淀に挟まれておとなしくしていた秀頼は立ち上がり、やや自分から離れた席に座る幸村の下へ行って抱きついた。
秀頼は幸村がお気に入り。
沢山遊んでくれるから。沢山剣の稽古を付けてくれるから。沢山お話してくれるから。
「そとにでよう。あそんで、ゆきむら」
円らな瞳で秀頼は幸村を覗き込んだ。
幸村はにっこり笑って「そうですね」と、言いながら、秀吉を見た。
「ええぞ、外で幸村に遊んでもらえ」
秀吉も笑った。
主役の秀頼が席を立ってしまうと何の会合だかわからない集まりになってしまう。ただの宴会だ。だが、秀頼も皆に祝ってもらって充分満足そうなのでこのまま主役不在のただの宴会になってもそれはそれでいい。楽しいならもう何でもいいのだ。大人達は酒を飲み交わし、騒ぎ続けていた。
「では、行きましょう、秀頼様」
幸村は秀頼の手を取り、立ち上がる、秀頼は幸村の手をぎゅっと握った。
「みつなりも〜」
秀頼は自分の父親の横で酌をしている石田三成を呼んだ。
秀頼は三成もお気に入りだ。
よく勉強を見てもらっている。何でも知っている三成を秀頼は尊敬の眼差しで見ていた。
三成はチラッと秀吉を見る、秀吉は頷いた。
一緒に遊んでやってくれ。
三成も立ち上がる。
秀頼、幸村、三成は城内の広い庭に出た。
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