書物棚2

□兄弟ごっこ。
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「か〜…悔しいわぁ…」
大袈裟に身振りを加えて悔しがる豊臣秀吉。
大坂城の一室にて、秀吉とその家臣・石田三成と真田幸村は香合わせを行っていた。
香合わせとは、多種、香木を用意し、それぞれを焚き、どの香りがどの木かを当てるという遊びで、必要なのは知識より体力より嗅覚。年、性別に関係なくどんな面子でも公平に楽しめる。
秀吉はお気に入りである三成と幸村を呼んで、忙しい合間の息抜きを楽しんでいた。
勝負の結果は幸村、秀吉、三成の順となった。
「強いなぁ、幸村」
秀吉が笑顔でぽんぽんと幸村の肩を叩く。
「私も信じられませぬ」
謙遜ではなく、本当に幸村は驚いていた。
こうゆう遊びは三成殿が一番得意そうなのに。
もしかしたら秀吉殿のためにわざと負けたのかも…それでも私が一番など…。
どんな事も全力の真田幸村。気合を入れて勝負には挑んだが、一位を取れるとは思っていなかった。
「で、幸村。三成に何を願う?」
秀吉が楽しそうに幸村の顔を覗く。
この香合わせで一位になった人は、最下位の人に何でも一つ願い事が出来る。
言い出したのは秀吉だった。
「はいっ。三成殿…」
幸村は真剣に三成を見つめた。
三成は悔しそうな顔をしていない。
わざと負けたからなのか、幸村になら何を言われても構わないからなのか、表情から三成の心は分からない。
「三成殿っ!これからも私と仲良くして下さいっ!!」
幸村が叫んだ。思いっきり。
三成は驚いたように目前の幸村を見ている。
「違うわ〜幸村、そうじゃのうてな」
秀吉が幸村の着物をくいくいと引っ張る。
「えっ!?駄目ですか?」
「駄目つーか…そうゆうんじゃないんさ。例えば〜…顔に落書きさせろっ!とかな」
「やりたかったのですか?秀吉様…」
三成の低い声が響いた。
「やりたかったさ!面白いじゃろ?ふふん♪」
少々怒り気味の三成にも動じない秀吉。
「私にはそのような事は出来ませんっ!」
幸村は何度も首を横に振った。
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