書物棚2

□家族ごっこ。
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「虎じゃ〜!!」
豊臣秀吉は叫びながら居城・大坂城内を走る。
昔から我が子同然に可愛がっている子飼いの家臣――石田三成が倒れたからだ。
「と〜ら〜じゃ〜ぁぁぁぁっ!!虎肉じゃ〜っ!!」
ばたばたと走る。
虎は千里を走り、千里帰ってくると言われる精力的な生き物。そこから健康に良いとされ、秀吉は虎の肉の塩漬けを愛食していた。
駆け回った秀吉は虎捕まえ名人の家臣――加藤清正を視界に捕らえ、近付いた。清正も三成と同じく我が子のように可愛がっている子飼いの将の一人。
清正は大好きな叔父貴に寄られ、手柄の好機とばかりに胸を弾ませる。
聞くと倒れた三成のために虎を捕まえて来て欲しいとの事。
三成を良く思っていない清正は難色を見せた。
ぱたぱたぱた。
その二人に近寄る青年が一人。
秀吉の近習になったばかりの真田幸村だった。
幸村は虎捕獲は自分で、と名乗り出た。
三成が倒れた原因は自分にあると言いながら。
「私…三成殿とほんとの兄弟になりたくて…。清正殿が兄弟になれる方法を教えてくれまして…――」
実践したら三成は体調を崩したと。
「…おみゃあさんは何をやったんだ?」
横で笑いを堪えている清正を不思議そうに見ながら秀吉は尋ねる。
「伽を共にさせて頂きました」
少し、照れた幸村の表情。
秀吉は大きな目を真ん丸くする。
未だ経験はないが、娘を嫁に出した気分だった。
「…まぁ…うん…そじゃな…兄弟じゃ…兄弟になれるな」
秀吉は背伸びをして、自分より一尺も背の高い幸村の肩をぽんぽん叩いた。清正はついに腹を抱えて笑い出している。
「それなら、三成は病で倒れたわけではないな…よかった〜」
驚いた時間は僅かで秀吉はすぐに胸を撫で下ろした。
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