書物棚2

□湯気興奮。
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豊臣秀吉が北陸、東海、紀伊、四国、中国を平定。天下統一まであと少し。
秀吉は天皇のお膝元である京に住居建設を、と、考えた。京に拠点があると何かと便利だ。
未だ平定されていない九州に軍を向かわせている間にその住居――聚楽第は完成した。
秀吉はこの新居を大変気に入り、誰かが訪ねて来ては、自らが得意気に案内をした。

「ここが風呂じゃ」
今日も飽きずに城案内。
東国の信濃・上田から人質に来た若者――真田幸村が今回のお客様。
幸村は策士として有名な真田昌幸の次男。真田領地安泰のために秀吉のもとに送り込まれた。
柔和な幸村の人柄を気に入った秀吉は自分の小姓にし、あちこち連れ回していた。
彼らの横には秀吉の幕僚である石田三成がいる。
天下統一王手の秀吉が共を付けないはずはない。
遠くから一人で西に来た幸村の気が楽になるだろうと秀吉は幸村と歳が近い三成によく世話を焼かせた。なので、幸村と外出する時は必ずと言っていい程に三成が共をした。
お陰で幸村と三成は仲が良かった。
普段、秀吉と家族以外の他人と距離を取る三成にしては珍しい歩み寄りだった。
幸村と接して、少しは柔らかくなるとええんじゃがな。
この二人を会わせる理由に三成の難い性格をほんわか幸村と接しさせて柔らかくしようというものもある。
三成が人の心を掴む術を身に付けたら最強なんじゃがな…。
そう秀吉は思っていた。
「ここがお風呂…ですか?」
合点がいかなさそうな顔の幸村。
「蒸し風呂じゃよ」
「あぁ、成る程」
秀吉の答えに幸村は頷く。
幸村自身、蒸し風呂の存在は知っている。生まれ育った場所が温泉郷なため、どうにも風呂と言えば湯船に浸かる方が浮かんでしまう。
「入ってみるか?」
笑顔で秀吉が覗き込む。
「是非」
蒸し風呂未経験な幸村は胸を躍らされた。
秀吉の一声で三成が風呂の準備をする。部屋が温まると秀吉と幸村は褌一丁で入室した。
「三成も一緒に入ろうやっ!」
「御一緒致しましょう、三成殿♪」
無邪気な二人に、にこにこと手招きされては三成も断れない。
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