書物棚3

□恋仲は籠の中。
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梅花の香りが辺りを包む。広い大地の中に何本か梅の木が並んでいるのだろう。
微かに子供の声が聞こえる。遠くて近い場所に村があるのだろう。
そして、すぐ隣に人の気配。
それが大谷吉継が今現在感じている世界だった。
吉継は病で視力を失っている。視覚世界は闇だが、吉継は充分過ぎる程に世界を感じられた。
今日は特に刺激が強い。
腰掛け石に座る吉継の横にいる人物が刺激を与え続ける。
恋人である石田三成。
三成が吉継の見舞いに来て、それから梅を見に行く事になった。
二人は吉継の家臣が用意した籠車に引かれてここまで来た。
車内で随分と大胆な事をして、どうにもそれから落ち着かない。
三成とはもう長いのにな…。
着いて来た家臣は村の方に行っている。
ここには吉継と三成だけだ。
「…車に戻っているか?」
三成が問い掛けた。
吉継の家臣が気遣いで二人から離れて随分経つ。
「そうだな」
三成に体を支えてもらいながら吉継は車に乗った。
車内で並んで座る。
静寂が流れた。
時間を約束していないので家臣達はいつ戻るか分からない。
「…吉継」
「ん?」
三成は小さな声で口付けを求めた。
「……」
吉継は戸惑う。
日の光りがある場所で吉継はその行為をする事に抵抗があった。
吉継はいつも白い頭巾で顔を覆っている。目元以外の肌は見えない。
顔に病の症状が出ていて、隠しているのだった。
口付けをするためには頭巾をめくらなければいけない。
自分の素顔は見せたくなかった。愛おしくて美し過ぎる三成には特に。
頭巾を取るなら夜だけ。
夜にした事があるから病が移る移らないの方は問題はない(はずだ)。三成が「大丈夫だから」だと言って、何度もした。
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