書物棚3

□蜜月は巣穴で過ごす狐。
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「秀吉殿ー」
大坂城に登って真っ先に駆け寄った。
「おぅ、幸村」
秀吉殿はいつもの明るい笑みで迎えてくれた。
「報告したい事があります。後でお時間ありますか?」
秀吉殿は私を凝視し、破顔した。
「良い事があったみたいじゃな?そいじゃあ三成に今日の予定を聞いてから……三成はどこにおるか知らんか?お前さんらいつも一緒におるじゃろ?」
あ…三成殿は……。
「病や怪我ではなく…体調が……懐妊…な〜んて」
お館様の冗談口調ぽく返すと、秀吉殿は声を上げて笑った。周りに響く響く。
「『俺に出来ぬ事はないっ』なんて言いながらほんとに産みそうじゃな!」
秀吉殿はからから笑いながら私の横を歩いて行く。
「三成いないなら今日の予定はわしの独断じゃ!幸村の話は今から聞くわ」
振り向いてそう言った。

秀吉殿に付いていく途中、ねね殿に会い、同席して頂く事になった。
ねね殿は母上同然。こちらにも報告しなければ!
広間で二人と向かい合わせで座ると強い緊張が沸いてきた。
「あの…あの……お二人の新婚時はどんなでしたか?」
緊張し過ぎて本題が出せなかった…。だけど、出た言葉はごまかしではないな。
秀吉殿とねね殿の新婚時の話…聞いてみたいっ。
「…あの頃に戻りたいわねぇ」
ねね殿が溜め息混じりに言う。聞いてはいけない事だった…のか?
「今の方がいいじゃろ?家は広いし、着物もいっぱいあるし」
「狭い屋敷で着たきり雀でもいいよっ……あの頃のお前様は浮気しなかったし…」
…………。
秀吉殿が黙った。
「狭い屋敷だったからいつもお前様を感じられて…いつも見える…」
ねね殿が当時の様子を語り出した。
いいな…好きな人とずっと近くに感じられるなんて。

屋敷に戻る途中は溜め息が出た。
秀吉殿もねね殿も私と三成殿の婚姻を信じてくれなかった……。
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