書物棚3

□柿が赤くなると狐が青くなる。
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石田三成は最近召し抱えた家臣・島左近を気にかけていた。
志しに惚れ、高禄で口説き、領地に屋敷を用意し、時間があれば顔を見に行く。
人と距離(時には壁も加わる)を取る三成には珍しい事だった。
好かれて左近も悪い気しない。
たまにはこちらからもてなそうと茶と羊羹を用意した。
まだ三成の食べ物の好みはよく分からない。
騒ぐの大好きな羽柴秀吉を大殿とする二人は何度か宴の席で一緒になった事はあるが、三成は秀吉にべったりだし、左近は酒飲み放題と隣席者との会話に夢中だった。
三成は酒を好まず、茶が好物なのだけは何となく分かった。
羊羹は食わなかったら後で自分で食べよう。
茶も羊羹も万能薬と言われる植物で作った特別なものだ。
気に入ってくれたら嬉しい。
柄にもなく恋する乙女気取りで左近は三成が訪れるのを待った。

事前に約束した時間きっかりに三成は現れた。
左近の用意した茶と羊羹を食べる。
「初めての味だ。原料は何だ?」
「どちらも柿です。柿は万病に…」
左近の言葉を最後まで聞く事なく三成は立ち上がり、走り去った。
「殿っ!?」
炊事場で噎せ、屋敷を出る三成。
左近には三成の異常が理解出来ず、何も出来ず固まってしまった。

三成は自分の屋敷に帰ると口を濯いで、常備している薬を飲んだ。
薬は痰毒に効く丸薬だ。
息を荒くし、その場に座りこんだ。
「……ぅ…っ」
涙が出て来た。
生理的なものなのか、心因的なものなのか…。
三成にとって、信頼する左近から柿が振る舞われる事は大きな衝撃だった。
柿は痰の毒…家臣が殿に毒を出すとは……。
「…佐吉、いるか?」
玄関から聞こえた優しい声に三成は顔を上げ、涙を拭いた。
「紀之介…」
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