書物棚2

□無邪気な宣戦布告。
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「――と、幸村から文を預かってきた」
越前に着いた三成は吉継に文を渡した。
吉継は三成の訪問を心底喜んだ。
会ってすぐに抱き締めたかったが、病が移るのを気にして泣く泣く諦めた。
吉継の体調は風邪に近い状態だった。発熱、咳が出るが、風邪とは明らかに違う。
顔を違和感を感じる。
寝たきりではないが、吉継は安静の日々を送っていた。
吉継と三成は日当りのいい部屋で向かい会って座る。何度も三成は「横にならなくていいのか?」と言った。その度に「今日は体調がいい」と吉継は答える。
しばしの押し問答を終え、やっと文を広げた吉継。
中を見て、一瞬、眉間にしわを寄せた。
「どうした?」
「最近…視力が落ちたみたいでな…」
「疲れが一気に出ただけだ」
秀吉が天下を統一させてからまだ長い時間が経っていない。三成も吉継も秀吉のため、精一杯駆け抜け、働いた。
「読み辛いのなら俺が読んでやる」
三成は手渡され返された文を読み上げ始めた。
「『吉継殿へ――…』」
幸村の吉継に対して心配している旨が書き連なれていた。
「『近々、上田の焼酎と梅を送ります。すごく美味しいですよ。これで精を付けて下さい。』」
そこで吉継はふっ…と、笑った。
「何だか可愛いな、幸村殿は」
幸村の性格がよく表された文だった。
「あぁ。上田の酒は幸村の好物なんだ。飲んだら感想を告げてやってくれ、喜ぶと思う」
「愛い弟のようだな、佐吉」
三成と吉継は二人きりの時のみ互いを幼名で呼び合っていた。
「確かに。幸村は弟のようだ」
柔らかに笑う二人。和やかな空気だった。
三成は続きを読む。
「『――。私の近況を報告します。大阪城での暮らしはとても楽しいです。秀吉殿もねね殿も実の親のようです。日々は秀吉殿の近くで働きながら、三成殿に学問を教わっています。吉継殿、相談なのですが…三成殿に勉強を見て頂いている時、何故かいつも胸がどきどきして、集中が出来なくなってしまいます…。』……!」
三成は言葉を詰まらせた。
「佐吉、続きは?」
吉継はからかうように言った。
「え?」
「幸村殿から相談。最後まで聞かないと答えられない」
吉継は笑っていた。その瞳は三成の反応を楽しむようだった。
「『あと、三成殿を見入ってしまいます。奇麗ですよね、三成殿。しかし……このままでは何も頭に入りません…私はどうしたらよいのでしょうか?』……」
三成は真っ赤になって、文を吉継に突きつけた。
「やはり自分で読め!字が読めなくはないのだろっ!?」
吉継は笑いを堪えないまま、文に目を通し始めた。
幸村の字を大きく書く癖に助けられ、吉継は何とか字を追えた。
『その事を秀吉殿にも相談したら“恋じゃ”と、言われました。私は三成殿に恋慕しているのでしょうか?』
しばらく室内に沈黙が流れ、三成が視線だけで「何が書いてあった?」と、尋いてきた。
「幸村殿は…ただの可愛い弟では、ないのかもしれないな」
三成は不思議な顔をして吉継を見つめていた。
幸村殿…もし、おれも佐吉に恋慕している、なんて返事をしたら、お前はどんな反応をするのだろうか…?
吉継は文を畳み、三成を見た。
勝負だな、幸村殿。
三成は未だに頬を染めながら首を傾げていた。
『それでは、今度、時間を作ってそちらに伺いたいと思います。色々な話をいたしましょう。真田幸村』

終わり。
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