ツバサのセカイ語り物
□express 〜My tears〜
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「おはようございまーす」
スタジオに訪れたのはファイだけで、彼一人をたくさんのカメラ機材や照明、またスタッフ達が出迎える。
この日はマガジン扉の撮影日だった。
いつものように撮影は朝から夕方までかかるだろうと思われた。
たった一枚の写真のために何百枚と撮る事もある。
それでも疲れを見せてはならない。
“辛くても笑っていなければならない事がある”
また彼もそう…。
ファイがスタジオに足を踏み入れた時から空気は変わった。
軽くもあり、重くもある。
しかし、それも彼の笑顔で調和され、釣り合いの保たれた無垢な世界が広がった。
ファイはスタッフ達に丁寧に挨拶し、撮影に入る準備をする。
各々がまた撮影の準備を始めた。
照明合わせやカメラテストのシャッターの音、スタッフの声も飛び交い、騒がしくなった。
またある一人のスタッフがファイのところへ来た。
「今日、メイクを担当させていただきます琴葉と申します。よろしくお願いします」
ファイはマネージャーに荷物を預け、メイクスタッフにも丁寧に挨拶した。
「では、メイクと衣装の雰囲気を見ますので、とりあえず衣装合わせを…」
「はーい」
そして衣装部屋に行くととても豪華なそれが目に入る。百合の刺繍が施されたロングのコートは、中でも一番美しい。
「素敵な衣装ですねー。衣装負けしそー」
ファイの口から軽くこぼれるその言葉は、同時に彼の心に鉛を沈める。
「あらファイさん。おはようございます」
遠くから走って来てファイに挨拶したこの者が、この衣装を作った本人だった。
「おはようございまーす」
「じゃあ、合わせますね。今はこのコートだけ着てみてください」