ツバサのセカイ語り物

□助けたいから…(続)
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【一】沈黙と愛






咳込む度に揺れるブロンドの髪。

蒼き瞳は閉じられた儘で。

尋常でない風邪がファイを襲う。


彼が体調を崩したこの日、黒鋼は入っていた予定を全てキャンセルし、絶えず側に付き添っていた。


風邪とは思えない程の病状に、何が起こるか予想がついた。故に、ファイの側から離れなかった。


差し迫る危機。

きっとそうなる。

けれども知らない振りをしていた。


…これは風邪じゃない。





「………………」



沈黙は続き、時が過ぎる。
無言でファイの看病をする。

それは優しさ。


苦しい時、そっとしておいてほしいと思うのが人の常。

だから何も言葉を発さなかった。

そんな黒鋼の気遣いはファイにもひしひしと伝わっている。

額の汗を拭ってくれる手、水を飲ませてくれる時に合う瞳から、心、包まれる温もりを感じた。

だからこそ、見せるまいと心に決めて、辛さを隠す笑顔を被る。

しかし、透明な仮面に皹が入ってしまう。


そんな彼の姿に心が痛む。

…今更、
 何を隠してやがる?


黒鋼はそっとブロンドの髪を撫でてみた。


…優しい手。
 すごく、暖かい。


その手でずっと撫で続けた。彼が安らかな寝息をたてるまで。


…安心して
 眠れるだろう?


…このまま眠って
 いいのかな?



撫でていた手が止まった時。
ファイが一時、辛苦を忘れる事が出来たと分かった。

黒鋼もそこで気が休まる。

汗でファイの額に張り付いた髪。
静かにそれを掬い上げると優艶な顔立ちが露になる。
彼の意思とは裏腹に、疲れの色を見せていた。


蝕まれた心に身を食われる。
しかし、それを決めたのもファイ自身。

おそらく、彼も知っているはず…。

黒鋼はなんとなくファイの右手に目をやった。

少し触れるとファイの額から綿布がずれた。

幾度となく取り換えたそれ。また冷却して、再びファイの額に乗せてやる。


ファイが笑ったような気がした。




そして黒鋼は睨みつける。彼に居座り、惨苦を与える悪疾を。

また奥底に眠る彼の心も。


 
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