ツバサのセカイ語り物
□痛みに愛を。
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通い慣れたスタジオで、この日もまた撮影があった。
写真に収める刹那の表情。喜怒哀楽以上を含む。
数多くの照明に照らされて、人工的な光を浴びて。
影は写される事はなく、彼らの光る姿のみ、それは着々と捕えていった。
彼らはまた次の衣装に着替えている。
小狼は、隣で衣装靴を履き替えているファイの足首に目がいった。
「ファイさん、足…大丈夫ですか?」
ファイは先日、アクションシーンの着地の際に、左足首を痛めてしまった。
顔には出ていなくても、ぎこちない歩きが痛々しい。
「うん、平気ー。優しいね、小狼君は。誰かさんと違ってー」
ファイは物言いたげな目で隣を見た。
黒鋼は着替え済ませて腕を組み、眼を細めてつっ立っている。
ファイのこそばゆい視線を感じ、見下ろすといつも見せられる笑顔を見た。
「何だ?」
機嫌の悪そうな低い声。別に気にする事はなかった。それはいつもの事なのだから。
ファイは椅子に腰掛け、後ろの机に肘をつき頬杖をつく。
「いやぁ、別にー。…また機嫌悪そうだねー」
いつもの口調にその傲慢そうなファイの姿勢とが合わさって、黒鋼は少し腹が立った。
故に答える言葉も刺々しくなってゆく。
「だから何だ?」
「あはは♪今日ホントはお休みだったもんねー♪
で、休み取られて怒ってる訳かー♪お子様みたーい♪
「……………」
「可愛いねー♪」
「……………」
「もしかして照れてるー?あはは♪」
ファイは頗る楽しそうにしている。
本当なら休みで黒鋼とは別行動をする日のはずが、急に撮影に呼び出された事で、今日もずっと一緒にいる事ができる。
「黒りーん?あんまり怒ってばかりだと、写真に出ちゃうでしょー」
「……………」
「あららー。怖い顔ー♪」
「……………」
「ねぇねぇ、何か話してよー」
「…少し黙ってろ」
とても冷ややかに、そして静かに放たれた。
そして、姿勢を変えないファイを睨んでいた赤い瞳は更に鋭利なものになった。
同時にファイから笑みが消える。
「……そんなに…怒らなくても…」
一瞬叱られた子供のように小さくなったファイだったが、直ぐにまた笑顔取り戻した。
しかし、相手にしてもらえない悲しさは消えず、話す相手を小狼に変えた。