ツバサのセカイ語り物

□殺
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東京での撮影もこれで4日目となる。




「ふぁー、疲れたー」



ファイはベッドに倒れた。

今日も撮影や打ち合わせ、ラジオのゲスト出演やトークショーなどいろいろとこなしてきた。



そして、さっき貰った台本を手にしている。



(『そんなに死にたきゃ俺が殺してやる』…か。こんな事言われたら…)



軽くため息をつく。

それは嬉しさと共に溢れたもので…。



(でも、2度目だね。多分)


ファイはお気に入りだった桜都国の台本を出してきてあるページを開いた。



(鬼にやられる前に『今あの世へ送ってやる』とか言われたっけ…)


思い出から微笑みがこぼれてしまう。


(楽しかったなぁ…この時。今は話が重すぎて…)





オレには重すぎて…



変わったね…



オレを殺すっていう台詞…



今はもう…


全然違う意味に変わってる…


(黒りんも変わったんだよねー)



俯せのまま、隣の空のベッドを見た。





なぜベッドが二つあるのか。



それは今回のロケで宿泊するホテルでは、二人部屋にされたからだ。



レコルト国を発った後の『東京』の撮影。出演する役者も多くなり、十分に部屋が取れない。



スタッフも彼らの仲は知っている。
この二人なら少しくらいの間、相部屋でもいいだろうと思われ、しばらくは一緒の部屋にされる事となった。


相手はもちろん黒鋼。





(今日も黒りん、してくるかな?…………でも今日はヤらせてあげないもんねー)




そしてファイはうたた寝してしまう。



しかしそれも計画のひとつだったりする。




しばらくして黒鋼が部屋に戻った。




いつもなら愛想のいい、帰りを喜んでくれる言葉が聞こえるはずなのに、その日はなかった。



広い部屋の奥へと進む。



ベッドを見ると着替もせず、台本を散らかしたまま眠っているファイ。


(何こんな古い台本出してんだ?)


二つの台本。開かれているそれぞれのページを見比べる。


なんとなく理解出来た。



黒鋼はそのベッドに腰掛けて、ファイの髪を撫でてみた。
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