ツバサのセカイ語り物
□殺
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起きる気配はなかった。
黒鋼は口の端を吊りあげて笑う。
「なんだ、爆睡か?」
ファイの躰を起こし唇を落としてやった。
「………ん、んん?」
ファイが目覚めたのを確認するとその口を解放すると可愛らしい寝起きの顔が目に入る。
「……あ、オレ寝ちゃったんだ…」
「珍しいな。シャワーも浴びずに寝るなんてよ」
「疲れてたからー」
少し不機嫌そうな言い方に疑問をもつ黒鋼。
「何怒ってんだ?」
「黒りんがそういう事するから!」
「ああ?」
「いっつも…いきなりそういう事…」
「起こしてやっただけだろ?」
黒鋼の眉間の皺が増える。
ファイはそれを見て黒鋼の手を払いのけ、シャワーを浴びに行こうとした。
しかし、黒鋼はそれを許さない。
「待てよ」
「いや!」
それでも力づくでファイをベッドに押し戻した。
ファイはやはり抵抗してくる。
「もう!だいたい毎日毎日やってるくせに!どうして自分の事しか考えないの!!オレは疲れてるんだから!どいて!!!」
「そうわめくな」
「……黒りんのバカ!!!!」
突拍子もないその言葉は
黒鋼にファイの逃げる隙を与える。
ここぞとばかりにファイは浴室へと向かった。
残された黒鋼は納得がいかない。というより腹が立って仕方ない。
直ぐに携帯から電話をかけた。かけた相手は黒鋼のマネージャーだ。
「おい!今すぐアレを持って来い!」
『何ですか?』
「鈍いぞ!!」
『…まさか、アレですか?』
「ああ、そうだ」
『また今日もファイさんを痛ぶる気ですか?』
「てめぇは俺の言う通りに動けばいい。お前の仕事は何だ?」
『……………分かりました。今すぐ向かいますから、そう怒鳴らないでください』
「だったらさっさとしろ!」
そう言って黒鋼から電話を切った。
むしゃくしゃとした気持ちを抑えながら。
そして直ぐに届けられた。目的の彼はまだ出てきていない。