ツバサのセカイ語り物

□殺
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「お先でしたー」



ファイは何事もなかったかのような態度で黒鋼に接するが、黒鋼は背を向けたまま何も言わずにいた。




近付いて黒鋼の顔を覗きこもうとした。だがその時、不意に壁に押し付けられた。
それは勢いよくされたものだからファイの背には衝撃が走る。
痛みにぐっと目を瞑った。




「…黒…様…、どうしたの?」



ゆっくりと目を開けるとそこには身を貫かれるかと思う程の視線があった。



「……ごめん。怒った?」

「遅い」


手に持っている物をファイの口に近付ける。

ファイは抵抗せず、切ない顔のままずっと黒鋼を見ていた。



「これが何だか分かるか」


「………うん。……薬でしょ?」



「何故抵抗しない?」



「だってオレ、さっき黒様にとてもヒドイ事、言っちゃった。…ごめんね」



ファイは顎を掴まれると、蒼い瞳を揺らせ、泣きそうな顔で黒鋼を見た。



束の間の沈黙。
ファイの狙っていた時の間だった。


「何も考えてないのは…、オレの方だね…。黒りんの事、凄く傷つけたみたいだから…」



「……………」




「だから…、もう君の好きなようにしてくれていいよ」



そう聞いて、ファイにそれを飲ませるのをやめた。
というより、飲ませる事が出来なくなった。


あんな目で…、顔で…
口調で…、
あんな事を言われれば、
流石の黒鋼も行動が取れない。


ファイの顎から手が離れると、黒鋼の後ろ姿がドアの方へと遠ざかった。




ガチャンとが開き、また閉まる音がする。
黒鋼が部屋を出て行ったらしい。
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