ツバサのセカイ語り物

□express 〜My tears〜
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ファイはその衣装を着せてもらうと、前にある鏡でチェックする。


「ファイさん、これも付けてください」


渡された物は眼帯をモチーフにしたアクセサリー。
描かれているのも同じく百合の花をイメージしたもの。


(…左目…なくしたんだったね)


眼帯を付けるという事は、吸血鬼ファイであるという事…


彼もそれを理解する。


付けた時に頬に当たる装飾はひんやりと冷たいものだった。



合わせは終わり、メイクに移る。

ファイはずっと黙っていた。


メイクをしながら役者の緊張を和らげるのも仕事のひとつ。


「ファイさんは、百合の花言葉はご存じですか?」


琴葉はいくつかのメイク道具を手にし、色合いを見ながらファイに問いかける。


「……ええ。………有名ですよねー」


「さっき衣装部さんが話されてたんですけどね、今回の撮影は演出がとても細かいらしいんです」



ファイはなんとなく分かる気がした。




…眼帯を付けるのは…

…オレが吸血鬼になったって事を表すんだよね…

…今日の撮影は物語に深く関わるものだから…

…生半可な出来になったら、また叱られちゃうねー…


ファイは頭の中でいろんなポーズをイメージする。
しかし、しっくりとくるものが浮かばない。


「今日は面白い共演者がいらっしゃいますよ」



メイクを終え、再び衣装を纏ったファイに琴葉は告げ、それを見せる。



「オハヨ!」


「あはは♪おはよー」


ファイに片言で挨拶するオウムに笑みが漏れる。



ファイはオウムを肩に乗せ、撮影の準備が整うまで戯れていた。




「オウムはね、饒舌の象徴なんですってね」

琴葉が口を開く。


「そうですかー。じゃあ似た者同士だねー」


「それと、温順の象徴でもあるんですよ」


「…でも、この子はそうでもなさそうでーす」


オウムはファイの言葉が理解出来たのかファイの髪を曲がった嘴で引っ張った。

「痛たた…」


ファイは笑いながらその子を叱るが、軽くかわされているように思えた。


その光景はとても微笑ましい。
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