ツバサのセカイ語り物
□助けたいから…
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撮影も終わり、空が黄昏色に染まる頃。
ロケ地を後にする役者やスタッフ達。
彼らもまた宿泊しているホテルに戻る。
今日のロケはホテルのすぐ近くで行われた。
歩いて帰れる距離で、そう遠くはない。
そして、少し離れた所には流れの遅い河がある。
撮影終了後、小狼がそこで殺陣の練習を始める。
たった一人で。
しかし、その振りは乱れたもので…。
ファイは彼の心情を知っていた。故にそんな小狼を遠くで見守ろうとする。
「先に帰っててー」
「てめぇ、何か用事あんのか?」
「いやー、小狼君の様子をちょっと見てようかなー、なぁんて」
「放っておけ。別に心配する事じゃねぇだろ」
「そうなんだけどー」
「………ふん。勝手にしろ。俺は先に帰る」
そう言って背を向けた黒鋼の後ろ姿は、どこか冷たいものだった。
(もう…すぐ機嫌悪くなるんだから…)
太陽もまた帰ろうとする。雲の隙間から見える茜の空も紫色へと移りゆく。
一人戦う小狼。
しばらくして川辺に腰を下ろした。
それを機にファイは小狼の元へ行く。
「小狼君」
遠くから明るく呼び掛けると、小狼は驚いて振り返る。
「ファイさん!何故ここに…」
「小狼君がここにいたからー」
「……俺の事を心配して?」
ファイは小狼に得意の笑顔を見せて横に座り、また河のある方に向き直った。
「……この仕事ってー、辛い事が多すぎるよねー。どうでもいいって思える台詞でも、凄くうるさく言われるしー」
ファイが横目で小狼を見ると、やはり悔しそうに俯いている。ファイは話を続けた。
「でも、一々気にしなくてもいいと思うよー。きりがないでしょ?」
「…だけど」
「…………あ!?」
その時、水面に広がる波紋を見た。
ポツ…
また地面にも同じ物が降ってくる。
「…雨」