ツバサのセカイ語り物
□助けたいから…
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(今度はそう簡単に許してくれない…かな?やっぱり)
ファイはベッドから出て危ない足取りで窓のある方へと向かった。
途中、倒れそうになりながらやっと辿り着く。
決して遠くにあるものではなかったが、その時はとても遠い気がした。
そっと触れてみる。
冷たいと感じる。
額を当てると、やはりそれは冷たかった。
(……別にいいよー。分かってほしいとか…思わないし。…………っ)
再び地面からの力を感じ、支えようと、触れていた指には力が入る。
…オレはね
あの時してもらった事、
同じようにしただけ…
オレが苦しくて堪らなかった時、身代わりになって…
それを取り除いてくれた。
でも、
それを知った時は凄く辛くて泣いちゃったかな…
“泣かないで…”
“だって…。だってー”
“なら、貴方が大きくなった時…”
同じようにすればいいって…
(…だから)
「…ぁ」
激しい頭痛がファイを襲い、目眩に負けてその場に倒れた。
(こんなに…酷く…なるなんて…。良かった…小狼君がこうならなくて…。今日は小狼君、…とても朝早くからお仕事だって…言ってたっけ?…頑張ってるかな?)
…………………え?
不意に背中に温もりを感じた。
二つの手が優しくファイを覆う。
「馬鹿野郎…」
「……黒様?」
黒鋼はファイを抱き上げ、ベッドに寝かせる。
「…どうしたの?」
「小僧が撮影の休憩中、俺の所に飛んできた。…お前ぇが自分の身代わりになってんじゃねぇか…って悟った事を、俺に伝えにな」
「口止めするの…忘れてた…」
力なく笑うファイを見て、仕方なく笑う黒鋼。
寝かせたファイの体を起こし、口付けをした。
慌ててファイは黒鋼を押し返すが、今日は一段と力がなく簡単に虜われる。
「……んんっ」
ファイは黒鋼に訴え、やっとの事で解放された。
「何だよ?」
「…移っちゃう」
「…移せよ」
「でも、この風邪…凄く苦しいから」
「俺はお前とは違う。風邪なんてな、捩じ伏せるもんだ」
彼の最後の一言にいつも衝撃を受けるファイ。
この強さに虜にされる。
「……でも、オレのした事、間違ってないよね?」
黒鋼は声に出して答える代わりにファイに口付ける。
それも助けたいと思う心。
END