ツバサのセカイ語り物
□痛みに愛を。
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モコナはすぐに気が付いた。
二人に聞こえる事のない声で、小狼にその訳を尋ねてみる。
「小狼、また黒鋼とファイ喧嘩した?」
モコナを抱いていたサクラがその問いに反応し、同じく小狼に答えを求めた。
「喧嘩って感じじゃないけど…、ちょっと色々あったんだ」
「最近、喧嘩ばっかりよね?どうしたのかな?」
皆で首を傾げていると、緋、蒼のそれぞれがこちらに向いた。
小狼達が慌て視線を反らした辺りから、やはりそうかと二人は悟る。
監督をはじめ、スタッフもそれに気付いたらしく、即座に撮影は再開された。
刻一刻と進むに連れて、空気の重さも増している様だった。
スタッフ達は早い内におわらせようと、落ち着きなく作業を進めた。
これが災いの元となる。
先程、スタッフ達が天井に取り付けた特殊効果を出すための大型の照明。
━━━━━!━━━━━
それを吊していたコードが切れた。
真下にいたのは彼だった。
いち早く気付いた小狼が、彼の名を大声で叫んだ。
「ファイさん!!!!上!!」
「ファイー!!!!逃げて!!」
「え?…上?」
ファイは言われた通り上を見た。
……!!??
「ファイさん!!早く!!」
…………ッ!?
(ダメ…足が…)
「ファイ!!!!!!」
そしてファイは、微笑んだ。
思い出した。
忘れられない、あのシーンを。
…そう…
…あの時と一緒だね…
…鞘で足を突かれたり…
…足が痛くて動けなかったり…
…ここで死ぬのも…
「一緒かな?……………………………」
…………!?
━━━━!!!!!!!!━━━
「キャーーー!!!!」
「黒鋼さん!!!!!」
「黒鋼ーーー!!!!!」
全て一瞬の出来事だった。
黒鋼はファイを突き飛ばしていた。
突き飛ばされたファイは何が起こったか全く理解出来ずに暫く呆然としていたが、赤い流れを見て漸く解った。
黒鋼に
助けられたという事を。
「黒鋼さん!」
「黒鋼ー」
「黒鋼さん!!」
小狼達が黒鋼の元へ走って行った。スタッフもまた後に続き、黒鋼を取り囲む。
取り囲まれた黒鋼はもう、ファイの位置から見えなくなった。
「…………黒…様…?」