ツバサのセカイ語り物

□痛みに愛を。
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ファイの思考が止まってしまう。何も考える事が出来なくなった。

それは脳裏を支配される事を許すきっかけ。



『黒様は、知らないから…こんな事、出来るんだね…』


『ああ、知らねぇよ。俺は怪我した事がねぇんだからな』


『……そう。じゃあ、やっぱり…オレの痛み…分かるはずないよね』


『お前…、もう一度言えるか?その言葉…』



……オレが、こんな事
……言ったから?

……オレの痛みを
……知ろうとしたから?

……どうしてオレを
……オレなんかを
……助けたの?

………………


「黒様ーーー!!!!」


離れていく黒鋼に聞こえたかどうかは分からない。


だから、

聞こえているように…と

心の底から祈っていた。



---------------


撮影はそこで中断された。
部屋に戻ってきたファイは部屋の隅に座り込み、黒鋼の怪我の軽い事を、ひたすら祈り続けていた。


太陽の沈む頃、壁に映る色を見られなくなり、ファイは膝を抱えて顔を埋めた。


コンコン!

外でノックの音がする。
しかし、ファイはそれを無視した。


それが黒鋼じゃないと分かっていた。


黒鋼ならばノックはしない。

いつも勝手に入ってくる。

会いたくなかった。
黒鋼以外、他の誰とも。




ノックの主は小狼とモコナだった。


「いないのかな?」

「ううん、小狼。ファイは嫌がってる。誰とも会いたくないって…。多分今ね、ファイ泣いてる。心がとっても痛がってるの」


小狼とモコナがファイの部屋を訪ねたのは、黒鋼の無事を伝えるため。




「小狼、どうする?」

「………じゃあ、モコナ。紙と何か字の書ける物が出せるかい?」


「任せて!」



━ファイさんへ

 黒鋼さんの怪我は軽
 くはなかったですが
 今日の晩はこっちに
戻って来れるそうで
 す。
 どうかファイさんは
自分を責めたり
しないでください。
       小狼━



小狼は戸の隙間からこの紙を滑り込ませ、またファイの心の痛みが少しでも和らぐようにと願ってこの場を去った。



空の色が完全に変わった時、やっと顔を上げたファイ。


眠っていた訳ではなく、ずっと黒鋼を想っていた。そして自分を責め続けていた。


 
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