ツバサのセカイ語り物3
□いつか終わる物語
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ファイは近頃、度のきつい酒ばかりを飲む。
その量も、前とは比べ物にならない程多く、味わう事もしなかった。
酒に逃げて、楽になろうか…。
広い部屋には大きくはないソファがひとつ。
その肘掛けに躯の重みを少し預けて、分からない何かを考えてみたり、見えない何かを見つめてみたり…。
ファイは手にあるグラスに酒を注ぎ、空になった瓶は側の背の低い机に置き直す。
(……終わり…)
グラスに口付け…。
遠くに広がる、影を背負う壁を眺めた。
「……………」
重くなったグラスを胸の前から目の位置へと連れてくる。
グラスの酒は半分以上、曖昧な意識が浮いている。
揺れる透明な涙海の中、
彷徨うような蒼い麗魂。
「『君に会えて良かったよー』………『ありがとうねー、黒…』…………『元気でねー、みんな』……………………」
(なぁんて……言わないだろうね…)
また一口、躯に流し…。
「…『………』さようなら『……黒…』」
その続きを遮る如く、ノックをしない黒鋼が勢いよく戸を開けて入ってきた。
ファイは目をやる事はなく、遠くの壁を越えて何かを見ている。
黒鋼の目に写るそんなファイの横顔は、何かに重なるものでもなく…。
部屋に踏み入り、一度歩みを止めた黒鋼が、ファイに近付き、重いグラスを取り上げた。
蒼い視線はそれに連れられて、今はじっと黒鋼を見上げている。
「…なぜ?…取るの?」
「飲まれ過ぎるな」
強く返され言葉に視線を落としたファイは、肘掛けから退き、場所を移ろうとした。
しかし、当たり前のように黒鋼がファイの腕を掴み…。
「待てよ…」
真剣な眼差しに対し、酒に惑わされ気味なファイは緩やかに笑みを浮かべている。