ツバサのセカイ語り物3

□瞳に映る想いと君と
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口に広がる甘い果実酒。


手にあるグラスの紅色を見て、ベッドでくつろぐ後ろの彼に背中を預けた。


ペラッと紙の捲れる音は、彼が台本なんかに目を通している事を告げる。


「……暇ー」


寂しさなど、いつもの事。
構ってほしい胸騒ぎを唇で漏らす。


「…聞いてる?黒様ぁ」



ファイは空になったグラスを、ベッドサイドにある小さなワインボトルの隣に置いた。








そしてまた、ゆったりと腰掛けている黒鋼に、もたれかかって問うてみる。


「ねぇ…まだ?」


「……………」


待てども、答えが返らない。


ファイはひとつ溜め息をつくと、何も言わずに部屋を出てしまった。


その後ろ姿を黙って見ていた黒鋼は止める事もなく、やや間をおいて、再び台本へと視線を戻した。





数分後。

半開きにしたままの戸を開けて、ファイが部屋に戻って来た。


「ねーぇ、黒様ぁ…」


甘えた声を出しながら、猫の如く擦り寄ってベッドに上がると、黒鋼と台本の間にするりと入り、顔を出す。


「台本ばっかり見てないでー、オレを見てー」


見れば、酒に染められた頬を上げ、とろけた笑顔を向けている。


「…もう酔ってんのかよ」


「ち…が…う…よん」


「あ?」


「オレが…」


ファイは黒鋼の胸にべったりと寄り添い、言葉を続ける。


「オレが酔わせてあげる……」


普段より低い響きは、もちろん誘い。

しなやかに伸ばされる右腕が、黒鋼の逞しい首に絡み始めた。

もう片方の手は、肉の無い頬に静かに触れて、紅い瞳を惑わせる。


「……ああ、酔わせろ」


黒鋼がその細い手首を掴んだ時にはもう既に、台本は床に落とされていた。






 
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