novel

□夏のある日
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きーんこーんかーんこーん――
 
今日も部活が始まる。
アイツに会いに行こう。
 
 
「栄口ぃ〜部活行こうぜ」
「わ、びっくりした。今日は早ぇな」
いきなりドアからひょっこり顔を出した愛しい人に心臓が跳び跳ねて、止まり欠けた。
 
「だって、栄口に早く会いたかったからさ!」
水谷の笑顔に息が詰まる。
 
耳と首筋が火照っているのがバレない様に、ピシャリと言い放つ。
「休み時間に会ってんじゃん」
 
「お前ってたまに酷いよな」
しゅん、とした水谷にチクリと胸が痛み、直ぐにボソリと呟いた。
「嘘だよ。俺も水谷に会いたかった」
 
ちら、と水谷の顔を見た。
 
「栄口ぃ〜」
「わ、抱き着くなよ!」
「ぅお、お前真っ赤!かわいい!」
「ばか水谷!かわいいって言うな!」
 
みるみる火照る頬に多少もどかしさを覚えながら、恥ずかしくて水谷にエナメルを投げた。
「あっはははは、そんなとこもかわいー!いてっ!いてて!わ、ばかやめろー!」
「ばか水谷!かわいいって男に言うことじゃねーよ!お前なんか一緒に部活行ってやんね!」
 
 
俺は恥ずかしくて真っ赤になりながらそっぽを向いてやった。
「わーったよ、自分がかわいいって自覚してない栄口君は男らしくてカッコイイ!」
俺の後頭部に話し掛ける水谷が堪らなく愛しかった。
 
「ばか水谷…」
愛しい。
ばかで真っ直ぐで、ヘタレなこの人が愛しい。
 
胸をふんわりと包む温かさが、どうしようもなく嬉しくて、感情のやり場に困った。
 
「どした?栄口?」
立ち尽くす俺の顔を覗き込む目尻が垂れ気味の愛しい人。
 
俺は無意識に彼の服の裾を掴んだ。
「なんか俺、お前が好きで堪らないみたい」
 
「おまっ…その顔は、ナシ、だろ…っ」
水谷が、俺の顎に手を掛ける。
「…っ!」
気付いた時には、俺と水谷の唇が重なっていた。
 
「――んはっ…っ、ばか、誰かに見られたらどうすんだよ…」
 
教室には既に誰も居なかったけど、背中を付けた薄い壁の向こうはまだざわついている。
 
俺は水谷との少し長いキスに、すっかり腰が抜けていた。
ずるずると背中を擦る様に座り込む。
「お前があんな顔であんなコト言うからだろ」
水谷が壁に手を付けたまましゃがむと、あの独特の音を立てて俺の机がずれた。
 
「だって、水谷があんまりばからしいことするから…」
「は?」
「…だから、俺はお前のそーゆうトコが好きなの…っ」
きっと、今の俺は耳まで真っ赤だろう。
顔が物凄く熱い…
 
「栄口…」
 
再びキスをしようとお互いの鼻が触れた時。
 
 
――きーんこーんかーんこーん――
 
 
「……ヤバい、部活」
じわじわと背中が冷たくなる。
「「わーーーー!!!!」」
 
綺麗に重なった俺らの声が、鳴り響く蝉の声を掻き分けて青い空と大きな白い雲に消えて行った。
 
 
 
汗を散らしながら、アイツと部活に向かうよ。
おばかな俺とアイツに幸あれ!
 
 
 
END...


07.12.25.
 

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