月下香−Tube Rose−
□−伍−己の進むべき道
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いつになったらこの2人は諦めるだろうかと、ある種我慢大会になってきた部屋の中に。
ドンドンッ
ノック、というにはずいぶんと乱暴な音。
室内の四人の視線が、一斉にドアへと向かう。
その大きな音に少しだけ驚いた佳穏だが、すぐにベッドから立ち上がり、ドアを開く。
扉の外に見たのは、不機嫌な顔の最高僧。
「・・・・猿はいるか。」
今の今まで煩く声が聞こえていた。
いないはずは無い。
女は部屋を振り返り、悟空に声を掛ける。
悟空がドアのところまで来ると、三蔵は不機嫌な顔のまま、
「煙草がきれた。買って来い」
一言そういい、悟空を部屋から摘み出す。
「えーーー俺もっと佳穏と話・・・」
三蔵に向かって口を尖らせるが。
一際大きくなった雨音に、
「佳穏、また後でな。」
と言い残して、悟空はしぶしぶその場を後にする。
それを、はい、と笑顔で返事をして見送って。
・・・・・・・・。
引き返すかと思いきや、その場でこちらを見下ろしたままの最高僧。
(嗚呼、えーっとこういう状況・・・なんて言ったら良いんでしょう?)
前門の不機嫌、後門の笑顔?
「あの・・・・・寄っていかれます?」
遠慮がちな声と愛想笑いを投げ掛ければ、僧は無言で部屋に入り込んできた。
(・・・・・昨日に引き続きオソロシイお坊さんですこと。)
やれやれと溜め息をついて、ドアを閉めて室内に戻る。
当然のごとくベッドに腰をおろした三蔵に、佳穏は再び盆を持ってキッチンスペースに戻り、茶の準備に取り掛かった。
そこでテーブルを振り返り、
「もう一服いかがですか?」
と問えば、
「お願いします。」
と笑顔が返ってくる。
(これは・・・・。)
居座る気まんまん?
再びやれやれと心中で呟き、先に出したものとは別の茶を入れる。
それを先にテーブルで注ぎ分けてベッドに戻り。
茶をすする音と雨音だけの部屋。
時間がやけにゆっくりで、器を手に持ったまま、ほー・・・と一息吐き出す。
(・・・で?)
雨はかなり降り続いている。
こんな雨の中出掛けていった悟空は大丈夫だろうかと、思考を飛ばしてみたり。
仕方が無い・・・心の奥でため息をつくと佳穏は立ち上がった。
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