記念SS

□Fall in love
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視線に気が付きハボックが顔を上げると、さっきの女性が困ったように見ていた。
「えと、ゴメン、何かな?」
「すみません、聞くつもりは無かったんですけど・・・ケンカってファルマン准尉とですか?」
「いや、うん、ちょっと」
「もしかして、私のせいですか」
困ったように心配そうにハボックを見る女性に慌てて否定した。
「違う、違うって。オレの言葉が足りなかったっていうか、ちょっと誤解っていうか、その、」
「やっぱり私のせいなんですね?ごめんなさい。あの、ファルマン准尉は悪くないんです。
准尉が話さなかったのは私を気遣ってくれたからだと思います」

気遣ってくれたと困ったように微笑む女性にハボックの胸が重い気持ちでいっぱいになった。
「ファルマン准尉は本当に優しい人ですね。あの日、資料室でも私を庇ってくれました。
私、付き合ってた人がいたんですけど、彼女がいると友達に言われても彼を信じてたんです。
資料室で彼が別の女性と抱き合っているのを偶然見てしまって、ショックで泣くことも動くことも出来なかった。
ファルマン准尉がやって来て、まず私に気が付いて奥にいる彼に気が付いたんです。
その時やっと視線を逸らすことが出来て、涙が溢れました。
准尉は自分の身体とドアで私を隠すと、気付かない彼らにガンガンとノックを響かせ無言で出て行けと伝えました」

悲しい出来事の告白にハボックは申し訳ない気持ちで一杯になると女性は優しく微笑んで続けた。
「ファルマン准尉は何も言わずハンカチを取り出すと抱えていた資料と取り替えてくれて。
私は大きなハンカチに涙が止まらなくて、ただ泣いていました。准尉は取り替えた資料まで仕舞ってくれました。
泣き止まない私をファルマン准尉は人が来ない休憩室へ連れて行ってくれました。
普通なら放って行きそうなのに、准尉は静かに側に居てくれてすごく嬉しかった。
側に居てくれる優しい准尉に泣きながら自分の想いを吐きだして、全く知らない私の話なんて困ったでしょうに」
苦笑する女性にもう傷は癒されたんだなとハボックは少しホッとした。

「話し終えて、涙もやっと止まるとファルマン准尉は穏やかに静かに言ってくれました。
悲しい終わりですが、自分を曲げずにあなたは想いを貫いた。それだけでも素晴らしいと思います。
あなたは優しい人ですね。一度も彼を責めなかった。彼を責める言葉はいくらでもあるのに、しなかったって。
私は准尉のお陰で癒されただけでなく、救われました。自分を嫌いにならずにすみました」
にこりとまた優しく女性はハボックに微笑んだ。
「これで全部なんですが、仲直りできそうですか?」
「うん、ゴメンな。話してくれてありがとう」
良かったと女性は安心したように頷き、ハボックはまた少し胸が痛んだ。
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