記念SS

□Fall in love
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どんよりと影を背負って、呟くような朝の挨拶をしながらハボックが大部屋に入ってきた。
ジメジメとしたオーラを放ち自分の席でガックリと項垂れている。
その後に続いて大あくびをしながらブレダが眠そうに挨拶をしながら入ってくる。
フュリーは挨拶をしながら小声でブレダに確認を取った。
「もしかして、またですか?」
「そう、フラれた」
ブレダの言葉にピクリと肩を振るわせるとハボックは顔を上げフュリーに泣きついた。
「フュリー・・・聞いてくれよ」
泣きたいのはこっちです!といった顔でフュリーはハボックの愚痴(フラれ話)を聞かされた。
ブレダは昨日めいっぱい付き合ったから!とフュリーに押しつけている。
毎回のことなのでもう慰める言葉が見つからない。お決まりのセリフで相づちを打ちながら流している。
フュリーもそうそう付き合ってられない。コレに付き合えるのなんて一人しか居ないだろう。
その一人が人数分の朝のコーヒーを持って大部屋に戻ってきた。
「おはようございます・・どうされました?」
「ファルマンっオレの人生が終わったぁああ」
泣きながら抱きついてくるハボックにぶつからないようファルマンは慌ててコーヒーの乗ったトレイを持ち上げた。
切々と失った恋しさを訴えるハボックにファルマンは頷くと慰めるように肩を叩いた。
側に居たフュリーにコーヒーの乗ったトレイを渡すと2人分を取り隅のソファーへハボックを促し座らせた。

「唇より瞼にするキスが好きでさ・・・甘い時間をあんなに過ごしたのに・・・
お別れはたったの3秒だなんて、悲しすぎるだろ」
ハボックがさめざめと切なさを話すのを静かにファルマンは聞いている。
ソファーに座っている2人を見てブレダとフュリーはやれやれ助かったと溜め息を吐いた。
穏やかに静かにそして優しくファルマンは付き合ってくれる。側で話を聞いてもらえるだけで傷が癒されるのだ。
ハボックでなくても悲しみに傷ついた心が癒される。実はブレダもフュリーも話を聞いてもらった事がある。
ファルマンに話を聞いてもらったことのある人物はかなりの数になるだろう。
「・・・・終わっちゃったけど、すごく楽しかった」
「ええ、良い恋をされたと思います」
「・・ありがと」
吹っ切れたように小さく笑うハボックにファルマンは穏やかに微笑んだ。

今日に限って仕事が定時で終わるなんてなぁ・・・ハボックは溜め息を吐いた。
ブレダは自分の隊と飲みだし、フュリーも用事があると言って2人ともサッサと帰って行った。
ハボックは煙草を咥えると未だに机に向かっているファルマンを見た。
視線に気付いたファルマンが顔を上げて首を傾げた。
「何か?」
「んー、今日ヒマ?飯くって帰んない?」
申し訳なさそうにファルマンは謝ってきた。
「すみません。大佐に書類を押しつけられてしまってまだ帰れないんです」
「ソレ終わったら後は何にもない?」
「え?はぁ、そうですね」
「じゃあ、待ってる」
驚いたように目を開くとファルマンは慌てたように付け足した。
「ですが、時間掛かりますから。1時間は軽くかかりますよ」
別に飯が喰いたい訳じゃない・・・ただ人恋しくて誰かの側に居たいだけ。
「わかった。終わるまで待ってる」
更に何か言おうとしたのだろうか、ファルマンは開き掛けた口を閉じ代わりに困ったように微笑み頷いた。
「手伝う?って逆に邪魔しそうだな」
ハボックの言葉にファルマンがくすりと笑った。書類仕事は自他共に認める苦手さだ。
「せめてコーヒー入れてくるよ」
冷え切ったコーヒーが残るマグカップを取り上げハボックは給湯室へ向かった。
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