短編集

□言の葉
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事件も喧噪もないのんびりとした穏やかな午後
ブレダ少尉は巡回にいき、フュリー曹長はにこやかに回線の修理を引き受け、大部屋にはファルマン一人。
大佐の(大量の)書類の手伝いもなく、資料整理をする。
たまにはこんな平和な時間もよいものだ、と思った矢先に金髪の少尉が戻ってきた。
彼がいる場所はいつでも明るく騒々しい。
静かな時間は終わってしまったが決してそれが嫌ではない。
「お、いたいた!ファルマン、えーと何だっけ?そうそう!
” ア イ シ テ ル ” だ」
・・・は?今、彼はなんといいました?   
思わず見開いた目を、ハボックは良いモン見たvと笑いながらファルマンの側にくる
「”ア イ シ テ ル 、コ コ ロ カ ラ ”」
空を写したような蒼い瞳をキラキラさせ、楽しそうにファルマンに話す
確かこれは東の島国の言葉で・・・
「遠い東の方の国の言葉なんだ」
聞き間違いではなくやはり東の国の言葉か
だがこの言葉は愛の・・・
「仲の良いモン同士がつかう“挨拶”なんだってさ
大佐が教えてくれた」
・・・やっぱり大佐ですか
しょうのない人だ、またハボック少尉をからかって遊んでいる。
「 ア イ シ テ  ル 」
ああ、意味を知っているだけに恥ずかしいことこの上ない
今すぐにでも止めさせた方がいいのだろうが・・・
言葉ひとつでこんなに楽しそうに嬉しそうにしているハボック少尉に真実は告げにくい
なにより―――
少尉の笑顔で繰り返される優しい響き
それが無くなるのが惜しい、と思う自分も相当な末期だ
「”ア イ シ テ ル
 コ コ ロ カ ラ ”」
分かっているのは自分だけ
それならば少しだけ
「”ア リ ガ ト ウ 、ワ タ シ モ デ ス ”」
答えれば不思議な顔をされる
「なんて言ったんだ?」
「”挨拶”の返事です」
「ファルマン知ってるのか?」
「少しだけですけどね」
「もう一回言って」
そんな笑顔で言われたら
「ア リ ガ ト ウ ワ タ シ モ デ ス」
何度でも、心を込めて


Fin

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