長編集

□つかの間のヒロイン(6)
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「お前こんなトコ一人で来るつもりだったのか?」
ファルマンは困ったように髪をかき上げた。
「少尉に一緒に来ていただけなければ、そのつもりでした」
「一人で来たらマジ切れするからな!」
ハボックは軽く睨み約束しますとファルマンは頷いた。
「本屋って裏通りにあるのかよ?」
「表との境ですね。結構有名な店なんですけれど」
二人が歩いているのはあまり治安の良くない・・・・薄暗い裏通り。
昼間はそれでも平気なのだが、夜歩くとなると女性一人歩きは襲ってくれと言ってるようなモノだ。
表だと迂回、迂回でこの3倍はあります、とファルマンは笑った。
「もちろん一人の時は表から回って行こうと思ってました。でも少尉と一緒なのでこっちからでも安心です」
ファルマンの笑顔にハボックはポリポリと頭を掻いた。
「次の角を曲がった先です」
ファルマンが道案内をしながら歩いていく。
店まで来ると待っててくださいとファルマンは中に入っていく。
煙草を吸っているハボックは言われたとおり店先で待つ。
確かに境目だな、ハボックは辺りを見回した。
表との境目つまり裏とも境目ってねぇ・・・・夜はかなり危険ゾーン
密売人か軍人狩り、はたまたその両方か?一般のシロートさんじゃなさそうだ
ハボックはチラチラと見える人影と時折ささる殺気に、ふーっと煙をはきだす。
「お待たせしました」
店から出てきたファルマンはとても嬉しげだ。
「ずっと読みたかったんです」
「そっか、良かったな」
ハボックは煙草をもみ消すとチラリと周囲に視線を流した。
「腹減った、メシ何喰う?」
「そうですね、何にしましょうか?」
表通りへ出ようと歩き出すがピッタリと殺気が歩いてやってくる。
ファルマンの手を取ってハボックは握る。
「気付いたろ?」
ファルマンは小さく頷く。
「すみません、ついてきてもらったばっかりに」
「お前一人の時じゃなくて良かったよ」
「撒きますか?」
「2つ目の角で行く」
「はい」
「あーあ、腹減ってンだけどなぁ」
緊張感があまり感じられないハボックにファルマンは苦笑する。
「遅れたり、転ばないよう気をつけろよ?」
「持久力が落ちてることは否めません」
「抱えて走るか?」
「ご冗談を」
「本気だったんだけど」
悪戯っぽく笑うハボックにまたもファルマンは苦笑する。
危機感を感じさせない本当に不思議な人だ。


 
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