長編集

□つかの間のヒロイン(8)
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ファルマンは食料とレモネードタイプの風邪薬ならハボックも飲めるかも知れないと購入しアパートへと急いだ。
道路からハボックの部屋を確認するが明かりはついていない。
もう既に眠っているのだろうか?買い物に出かけているのだろうか?
それともブレダが言っていた通り中で倒れているのだろうか?
呼び鈴を押すが出てこず、返事すらない。ドアをノックし呼びかけるがやはり返事がない。
もう一度ドアをノックし呼びかけるが返事はない、だが中から物音が聞こえファルマンはドアノブに手をかけた。
開いてる_____ファルマンはそっとドアを開けた。
「ハボック少尉?」
お邪魔しますと暗い部屋の中にファルマンは様子を窺いつつ入っていく。
ファルマンがソファーの近くで倒れ込んでいるハボックを見つけるのとハボックが起きあがったのは同時だった。
「・・・・夢?それとも・・・・本物?」
ファルマンは荷物を床に置きハボックに近づいた。
「大丈夫ですか?手を貸しますからベッドへ行きましょう」
ぼんやりとした表情でハボックはファルマンを見上げる。
「本物なわけ、ないか・・・・・来てくれるわけないもんな」
「ハボック少尉?」
「もし・・・本物なら・・・・・早く、出てって・・・・オレやばいの、飲んじゃったから・・・・」
様子のおかしいハボックを不審に思い、微かに香る甘い匂いにも気がついた。
ファルマンは素早く回りを見渡しローテーブルに乗っている小瓶を見つけ、頭に警告が響く。
この匂い催淫剤、興奮剤の一種か?・・・・それを少尉は飲んでしまったのか?
熱っぽく潤んだ瞳でファルマンを見つめるハボックに身の危険を感じそっと距離を取る。
「夢なら・・・もっと側にいてくれたっていいのに・・・・」
ブレダに連絡をしたいが電話はハボックの後ろでどうすることもできない。
このまま放って置くわけにはいかないが、下手に刺激すればどんな目に遭うかわからない。
夢だと思っている内にこの部屋を出なくては、ハボックを見つめながら玄関に向かって少しずつ後ずさる。
「・・・・ファルマン?」
僅かに変わった表情でハボックに自分は本物だと気付いたことが分かる。
ファルマンの心臓が激しく打ち出した。
ハボックは動かず床の上に座ったままファルマンを見ている。
ここまで来れば玄関はすぐそこで、ドアを開けるだけだ。
ファルマンはハボックを見つめたままドアノブに手をかけ回し _____ガチャリと音が響く
しまった、鍵を______ 
ファルマンはドアへ飛びつき鍵を開けたが外に出ることは出来なかった。

 
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