長編集

□つかの間のヒロイン(9)
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あれは本当に夢だったのではとファルマンが思うほど日常は変わらず過ぎていく。
ハボックも最初は戸惑っていたが笑いかけ話しかけてくれる。
良かったと微笑み返す度に・・・虚しくなっていく。
拒んでいれば、逃げ出していたらこんな思いはしなかった_____
彼が私を愛してくれるのはあの時だけだった。どんなに焦がれても自分に触れてくれることはありはしない。
ハボックに愛されたいと望みそれが叶った。
けれど・・・想い願う心はどんどん膨らみ夢を見る。
彼の側に居たい、自分の側にいて欲しい。
煌めく蒼い瞳で優しく見つめ、温かい腕の中に包み込んで欲しい。
溢れるほどの愛情を彼に示し、捧げたい。
どれだけ愛しているかを言葉にして彼に伝えたい。

想う気持ちは本物、だけれど錬金術が生み出した偽りの感情。
消えてしまう偽物など見せることも、打ち明けることもできない。
元に戻れば、偽りでない愛を伝えることが出来る。
しかし、男の自分を誰が受け入れてくれるというのか。
・・愛の言葉も想いもずっと胸の中に留めておかなければいけない。

今日もまたコーヒーの入ったカップを配って回れば、サンキューと変わらない笑顔でハボックは受け取った。
だから、これで良いのだ。近くでハボックを見ることが出来るのだから。
ファルマンはやるせない想いをまたハボックの笑顔で封じ込めた。

マスタングに心の内をさらけ出したファルマンは今までと変わっていた。一定の距離を保ち誰も寄せ付けなかった。
ファルマンはいつでも髪を1つに纏めハボックのバレッタを使うことも下ろすことも無かった。
女性を受け止めたのだろうファルマンは誰から見ても綺麗になった。
マスタング達はその美しさが繊細で壊れやすい心の状態を映しているように見えた。
虫除けでしばらく消えていた『お誘い』が復活した。それどころか次々と求愛者がやって来たのだ。
ファルマンが哀しげに微笑む姿は儚げで今にも消えていきそうだった。
マスタングとホークアイは全てをはね除け、騒ぎが落ち着くまでハボックやブレダ達も側に近寄れなかった。
心も身体も何とかしてあげたかったが、解決策が見つからず過ぎていく時間に歯がゆい思いをしていた。
 
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