長編集

□つかの間のヒロイン(2)
2ページ/8ページ

此処で待っていれば彼に会えるはずだ・・・・
街灯に寄りかかりファルマンは顎に手をやり俯いた。
何て言おう?とにかく謝るしかない。だが他にどうすればいいだろう?
ああ、こんな事になるなんて思わなかった。死んだ虫に大騒ぎした自分に嫌気がさす。
自分なんかに抱きつかれて嫌だったろうにそれでも笑って許してくれた。
少尉はもうこの話を知っているだろうか?知ったとしたらどれだけ気分を悪くするだろうか・・・・

「なーに朝っぱらから不景気な顔してんだファルマン?」
おはよーさん、と歩き煙草のハボックは昨日と変わらない。
おはようございますとファルマンは顔を上げたが視線を落とした。
少尉はやっぱり知らないのかあの話を・・・・
「こんなとこで何してんの?」
「少尉に謝りたくて、待ってました」
「謝る?何を」
「昨日の給湯室でのことです。あの時、誰かが見ていたらしくて噂が立ってしまったんです。本当に申し訳なくて」
「噂?どんな?」
「・・・・少尉が私に告白し抱き合ってキスしてたと」
話している内にファルマンの顔が悲しみに沈んでいく。
ハボックは聞いている内に良かったと安心した。
一人佇んでいたファルマンは泣いているように見え、どうやって声をかけようか暫く悩んだのだ。
ハボックにとっては噂話の内容も驚かなくはないが別に気にならない。
昨日の周りからの視線とブレダが何か隠しているその答えが見つかってかえってスッキリしたぐらいだ。
「本当に申し訳ありません。ちゃんと噂は否定して回りますし、これからは話しかけたり少尉の側に行ったりしませんから・・・・」
「それでココで待ってたわけか」
「すみません、他に何も思いつかなくて。あの何でも少尉がして欲しいことをしますから」
ファルマン自身のことではなくハボックのことで心を痛めていたと分かり、ハボックは嬉しかった。
「それじゃ早く行こうぜ、このままじゃ遅刻だ」
ポンとファルマンの背中を叩き歩き出す。
「少尉・・・許していただけるのですか?」
顔を上げたファルマンの瞳は驚きと不安で揺れている。
「許すも何も怒ってないし、気にもしてないって」
ハボックの温かい笑みにファルマンは良かったと嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。少尉、あなたは本当に優しいですね」
なーに言ってんだよ、とハボックは照れて頭をかく。
ったく、そんなこと正面切って普通言わないだろ・・・・他人のことで悩んでるお前の方が優しいっての

少し早足で2人並んで司令部へ向かい挨拶を済ませる。
朝のコーヒーを入れに行くファルマンに約束通りハボックは付いていった。
「でもさ、あんな所で待っててオレと一緒に歩いてたら噂は本当ですって言ってるようなもんじゃね?」
ハボックの言葉にファルマンはショックを受け落ち込んだ。
ファルマンという人物は冷静で落ち着いているようで、しかしとんでもなく抜けている。
真面目で堅い年上の男に使う表現ではないが、やっぱり可愛い。
「何かもう自分に呆れるやら腹が立つやら・・・」
「だーから、気にすんなって」
項垂れているファルマンにハボックは笑った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ