長編集

□つかの間のヒロイン(8)
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ハボックの腕がファルマンの両脇から伸びてドアを押さえている。
ドアノブを握りしめたままファルマンは立ちすくんだ。
くっつくように捕らえられているのにお互いの身体はどこも触れていない。
背後にいるハボックが怖くて、激しい鼓動で胸が痛い。
「行かないでくれ」
呟くような小さな声だったがファルマンはびくりと身体が震えた。
ここに留まることは出来ない、そんなことをすれば少尉が私を・・・・・
「手を、離してください」
ドアノブが命綱であるかのようにファルマンは握っている。
「頼むから、行かないで」
苦しげに呟くハボックにファルマンの心が揺れ動く。
こんなにも自分はハボックを想っていたのか・・・・彼に抱かれても構わないと思うほどに
だが彼が傷つく所など見たくない、後悔している姿などもっと見たくない!
「帰らせてください」
ハボックの腕がドアから離れた思うとファルマンは後ろから抱きしめられる。
「行くな」
耳元で顔を伏せてハボックが呟く
なんて狡い人なんだろう・・・・・どうしたって逃れられないじゃないか
ファルマンの手がドアノブから離れ落ちるとハボックはしがみつくように抱きしめてきた。
「どこにも、行くな」
愛されずに言われる言葉は残酷で・・・・どこまでも甘く響く
つむがれる言葉も声も、身体に回されている手も温かさも全て本物のハボック
積もりに積もった想いが溢れ出しファルマンを押し流していく
身動きせず声も立てずされるがままに抱かれているファルマンをゆっくりとハボックは身体を離し振り向かせる。
「ファルマン」
ハボックの熱で煌めき揺れる瞳は傷つくことを物語っている。
「優しくするから・・・・・」
そんな気休めを言うのはやめて欲しい
「本気じゃないならやめてください」
近づいてきた口づけをそっとファルマンは避けた。
ハボックはそれでも構わず頬に瞼にキスを落としていく。
ファルマンの服に手がかかりハボックの手を掴み押しとどめる。
ハボックは掴んだ手を持ち上げ指の一本一本にキスをしていく。
「お前の全てが見たい」
わかってても嫌だと言えない・・・・・バカな自分
それなら夢を見よう、たった一度きりのつかの間の夢を
瞼にそっと柔らかくキスをもう一度落とすとハボックは上着を脱がせた。
身動きできないほど、もう一度抱きしめて欲しい・・・・・・もっと甘くだまして欲しい
ハボックは露わになった一つひとつにキスを落としていく。
心地よくうっとりとした気持ちでハボックからのキスを受ける。
自分から脱いだのか、それともハボックにか、気がつけばシャツと下着だけになっている。
そっと背中に手を回し撫でるようにホックを外しハボックはシャツとブラジャーを取り去った。
ハボックの指先が胸からおなかへとたどり、ファルマンは未知の不安に息を呑んだ。
それを振り払うかのようにハボックは柔らかく口づけをし、喉元から肩へと唇を滑らせていく。
「ファルマン」
最後にハボックはヘアバンドを外し放り投げた。
「お前に触れたい」
包み込むように抱きしめられ段々と力が強くなりファルマンの息が苦しくなる。
このまま、ハボックの腕の中でバラバラに壊れてしまいたい
愛されたまま消えていってしまいたい
ファルマンが小さく息を吐くとハボックはゴメンと力を緩めた。
ハボックはファルマンを抱え上げるとベッドまで移動しそっと下ろした。
邪魔だと服を脱ぎ捨てるとベッドに乗り上がる。
「綺麗だ」
甘く囁くと体中にキスの雨を降らしていく。
知らずにあがる声が恥ずかしくファルマンは口元に手をやる。
ハボックの指が唇が燃え盛る炎のように体中を駆け巡りファルマンは喜びで震えた。
「お前を、感じたい」
押し入ってくる痛みにファルマンは指を噛みしめて堪え、ハボックの全てを受け止める。
1つになれた喜びでファルマンは微笑んだ。それを見たハボックは荒々しい熱にのみ込まれ激しくファルマンを抱いた。
熱に浮かされたハボックの瞳にはきっともうファルマンは映っていない。
容赦なく攻め立てる甘い苦痛にファルマンも翻弄される。
何度も、何度もファルマンの中に熱を放ちファルマンの上に崩れ落ちるようにハボックが気を失うと、ファルマンも意識を手放した。

 
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