長編集

□つかの間のヒロイン(9)
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ついに闇オークションの日がやって来た。
表と裏、両方のお客がいるからだろう、パーティはかなり盛大なモノだ。
ハボックは会場の壁に目立たないように立ち主催者をずっとマークしているが動きはまだない。
会場に視線を走らせればマスタングは華やかな女性達に囲まれて口説き文句を並べ上げている。
その側でホークアイは万が一のために周囲の状況に気を配っている。
ハボックも確認してきたが狙撃できそうな場所は見つからなかった。屋敷の持ち主が狙われないように作り上げたためだろう。
入り口が少しざわめき新たな客が何組か来たことが分かる。
一団の中にターゲットが現れて、それと同時に自然な動きでブレダがこちらにやってきた。
「遅くなった。奴さん寄り道してくれたもんでな」
「相手は?」
「ヴァニスが付いて『問題なし』と返ってきた」
正確にはファルマンに引っ付いてるだがな、とブレダは苦笑した。

ざわめきが会場の中央まで進んでいって個々に別れた。
ノースリーブのドレスを身に纏ったファルマンが現れると、ハボックは息を呑んだ。
首の後ろで留めたドレスはぴったりとファルマンの身体の線に沿って流れ落ちている。
ネックラインは深く切れ込み、少しゆるみのあるトップは豊かな胸が何かの拍子に全部見えてしまいそうだ。
後ろもウエストのラインまで広げられ、滑らかな背中を惜しげもなく見せている。
歩く度に深く入ったスリットからすらりとした綺麗な足が見え隠れする。
ファルマンの清楚な雰囲気が包み込んでいるからだろうか。
こんなにも官能的で艶めかしいドレスなのに、けばけばしいイヤらしさは無い。
男達の目がドレスの下にあるものを思い描いているのがわかり、ハボックは殴りつけたかった。
ファルマンのこの姿を誰にも見せたくない、誰も居ない所へ今すぐに連れて行ってしまいたい。
・・・これ以上見つめていたらとんでも無いことを口走りそうだ。
薬を飲みあの夢を見て以来ファルマンに近づくことを避けてきたのだ。
近くにいたら夢と同じコトをしてしまうかもしれない。
隣で微笑まれたら自分を押さえることなどできないだろう。
ファルマンから顔を背けるとブレダから戸惑った空気を感じたがハボックにはどうすることも出来ない。
「あれじゃ潜入より野郎を追い払う方が大変だろ」
「ダメなら大佐にくっ付くってよ。確かに振り切るには一番だな。そこら辺の男じゃ太刀打ちできない」
アレを見れば明らかだ、ブレダが顎をしゃくってマスタングに色めき立つ女性達を指した。
「どんなものか本気で口説かれてみたいと言ってたし」
「なん、だと?」
「ご自慢の微笑みで甘く口説かれりゃ、そのままお持ち帰りだな」
マスタングに泣きながら縋るファルマンが蘇り頭を振ってハボックは消し払う。
ファルマンが大佐と?ダメだ!絶対にそんなの!・・・オレからもっと離れてしまう!
「そんなのダメに決まってんだろ!ブレダ!オレのコトはいいからアイツに引っ付いてろ!」
「何ムキになってんだよ、そんなわけ無いだろ?冗談だ」
ブレダは驚いた後ハボックの胸をトンと拳で叩いた。
「ヤツが動いた。じゃあな」
気をつけろよ、とブレダは言い残すと自然とマークできる位置まで移動していった。
 
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