長編集

□つかの間のヒロイン(9)
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主催者の方はまだ動きがない。
マスタングが視線を走らせたので追ってみれば、ブレダが屋敷の奥に入っていくのが見えた。
たぶん交代、そんでそのまま中を探れって言われんだろうな。
主催者が一組の夫婦と歩くのでハボックもとりあえず移動していく。
ファルマンが話しかけてくる者を穏やかな微笑みで受け流し、こちらへ近づいてくる。
側の給仕から1つだけあった白ワインをファルマンは手にした。
ほっそりした体のしなやかな身のこなしはとてもセクシーだ。
ハボックも給仕に近づきワザと注文した。
「白ワインを」
「申し訳ございません、今ご用意いたしますので」
「よろしかったら、どうぞ。まだ手に取っただけですから」
ファルマンが微笑んでハボックにグラスを差し出した。
受け取るとファルマンは別のグラスを手にし給仕が2人から離れていった。
「お願いです。ハイマンスの相手とそのままデートして来てください」
「やっぱりな。そう来ると思ったよ」
「私が行くまでハイマンスはそのまま待たせてくださいね」
会話をしながらブレダが消えていった扉へと移動していく。
「随分と大胆なドレスだな」
ハボックの視線に恥ずかしそうに微笑んだ後ファルマンは真面目な顔をした。
「動けないとお話になりませんからね、露出が高いのは仕方ありません」
「お前にワルツより荒々しい情熱的なダンスを踊らせる気はねぇよ」
分かってますよと微笑みながら信頼の目をファルマンが向けるのでハボックは嬉しかった。
楽団がワルツを奏で始め、夫人の手をとり主催者が踊りだした。
数名の男達が部屋の奥の扉から抜けていくのが見えた。
「これが合図だったようですね」
運悪くテーブルの側で人が固まってしまい、ぶつからないようにファルマンを引き寄せた。
セクシーなドレスの背中に手を回し、露わな肌に触れてハボックはハッとした。
じっと見つめているハボックにファルマンは首を傾げた。
「どうしました?」
「・・何でもない」
誤魔化すようにテーブルにワインを置いて歩き出した。
扉の近くまで来るとブレダが出てきたので、ファルマンはさっと身体を離しブレダにピッタリとくっ付いた。
「ハイマンス、お願いです。彼とお相手を交換してください」
「わかった。突き当たりの右にいる」
ハボックが頷くと気をつけてと言葉を残しファルマンはブレダと踊りの中に消えていく。
ファルマンを奪い返しそうになり、グッと握りしめていた拳をゆっくりとハボックは開いた。
準備していたオークション用の仮面を取り出すと屋敷の奥へと入っていった。
 
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